マツダ・ロードスターと細く赤い糸で結ばれたイタリア車|O.S.C.A.1600GTSベルリネッタ・ザガート

写真:デレック槇島 Photography:Derek MAKISHIMA



思う存分
契約上、"Officine Alfieri Maserati"の会社名を使うことはできなくなっていたが、彼らは妥協せずに優れたレーシングカーを作るという信念を曲げず、OSCAの名で活動を開始した。その時、ビンドは64歳、エットーレが53歳、エルネストは49歳になっていた。戦後のイタリアには、チシタリアに代表されるような小規模なメーカーが誕生しつつあり、環境は戦前にマセラティ社を興した時よりは整っていたといえるだろう。まさに好機到来だった。三人の年齢を考えれば、これ以上は待てなかったはずだ。

果たして、迸る情熱と信念のなせる技というべきか、独立から半年もかからぬ1948年4月には、最初のモデルであるMt4 1100が完成した。さらに1950年にはMt4エンジンの発展型としてDOHCヘッドを持つMt4 2ADが誕生した。

1948年9月19日のナポリでのレースで、スタードライバーのルイジ・ヴィッロレージによる総合優勝を果たし、これ以降、レースでの快進撃が続いていった。1951年のミッレミリアは初めてクラス優勝を果たすと、OSCAはクラス優勝の常連となり、時に上位3位までを独占するといった有様だった。またタルガ・フローリオでも善戦し、欧州だけでなく、北米からも注文が押し寄せた。その間、1954年には工場施設が手狭になったことから、ボローニャ郊外のサン・ラザーロ・ディ・サゼナに移転した。彼らはレースに勝つことが車の販売に直結することを承知していたから、優れたマシンを造るためには妥協を許さず、ほとんどのコンポーネンツ生産を自社内で手掛けていった。

OSCA 1600GTS
こうした活況を呈するOSCAに、自社モデルのために高性能なスポーツカー用エンジンを求めていたフィアットが注目。OSCAはこれに応えて、レーシングエンジンをデチューンして、81CV/5500rpmを発揮するOSCA1500エンジンを完成させた。フィアットはOSCAからこのエンジンの基本設計を買い取って自社生産を準備し、1958年トリノ・ショーで、ピニン・ファリーナ製のスパイダー・ボディを持つ試作車を公開すると、翌年にフィアット1500カブリオレとして発売した。言うまでもなく仮想のライバルはアルファであり、1963年には排気量を拡大して100CVにパワーアップした1600Sに発展している。

1960年のトリノ・ショーでは、OSCA自身もフィアットからエンジンの供給を受け、フィアットより一足先に1600ccに拡大。これを搭載したグラントゥリスモ、"1600GT"を発表した。シャシーは手慣れたチューブラー構造で後輪独立懸架を備え、ザガートがアルミ製のボディを架装した。

信頼できる自動車年鑑の『カタログナンバー』1961年版を見ると、OSCAの項には、市販レーシングスポーツの750(746cc、75PS_DIN)、同1100(1092cc、95PS)、1500(1491cc、135PS)、2000(1995cc、175PS)のほか、これらのグラントゥリスモが並んだ。さらに、1963年版の1600シリーズ専用カタログには、大人しい1600PR2と1600GT2(95と105CV、後輪リジッド)、さらに強力な1600GTV(125CV)と1600GTS(140CV)の4モデルが掲載されている。

前述したように、東洋工業はこのラインナップの中から最強モデルの1600GTSを入手した。GTSは伊誌によれば車重750kg(カタログ値は800kg)で、最高出力は140CVなので、馬力当たり重量は5.35kg/CVとなるが、この値は今日の水準に照らしても極めて強力だ(量産車との比較は無意味だがマツダ・ロードスターは7.56kg/PSだ)。OSCAについて記された文献によれば、1600GTシリーズは、1963年までに僅か128台(うち98台がザガート・ボディ)が生産されたにすぎない。

なぜなら、OSCAは1963年にヘリコプターや高性能モーターサイクルを生産するMVアグスタ社に買収され、またしても兄弟は自社の経営権を失ったからであった。そして3年後の1966年にOSCAは自動車生産を終えた。だが、19年間にわたってマセラティ兄弟はOSCAで思う存分、レースを追い続けたことだろう。1600GTSを見ていると、私にはこれが兄弟の集大成に思えてならない。

1962年O.S.C.A.1600GTS(メーカーカタログおよびカタログナンバーによる)
エンジン:1568cc(80×78mm)、水冷直列4気筒、DOHC、
ウェバー・ツインチョーク・キャブレター×2基

最高出力:140CV/7200rpm(DIN) 最大トルク:13.5kgm/5500rpm(DIN)
変速機:前進4段MT+後退、後輪駆動
サスペンション(前/後):独立式、コイルスプリング、ダンパー ブレーキ:4輪ディスク
車重:800kg(イタリアの専門誌では750kg)
ボディサイズ:3900×1500×1200mm(公称値)

ホイールベース:2250mm 最高速度:220km/h(公称値)

文:伊東和彦(Mobi-curators Labo) Words:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 

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