栄光と悲しみに満ちた、あるレースカーの数奇な運命|アルファロメオ・ジュリア・スプリントGTA

1965年式アルファロメオ・ジュリア・スプリントGTA(Photography:Mitch Pashavair)



後で判ったことだが、ロースはその車の修理中に胸部を痛め、シートベルトがしづらい状態だった。そして本戦中の真夜中近くに事故は起きた。濃い霧の中で、別の事故のために駆けつけた救助車両を避けようとしてコントロールを失ったのだ。彼はシートベルトをしていなかったようで、締めていたら助かった可能性もあったと考えられている。

「ロースがGTAで成功を収めたことはよく知られていた。だから葬儀で教会まで棺を運ぶときにも、このGTAが使われたんだ。ルーフに棺をのせて目抜き通りを押されている写真が残っている。最後のお別れをするために大勢の人が参列したことからも、彼の業績と人気が偲ばれるね」

その後、このGTAはすぐに売却され、アメリカに渡った。そして再塗装と部分的なレストアを受け、オレンジと白の鮮やかなカラーリングやそれまでのヒストリーを示す痕跡は、ほとんど消されてしまったのだという。

注意深く歴史ごと再生する、ということ
パドックに戻ってきたGTAを目にして、そのヒストリーに並々ならぬ敬意が払われていることがすぐに判った。仕上がりが美しいのは確かだが、飾るために新品同様に仕立てる一部のレストアとは明らかに違っている。マックスは「意味もなく交換したものは何ひとつない」と胸を張りながら、レストアにまつわるストーリーを語ってくれた。

「オーナーはこのGTAを何年か所有していて、レースにも数回出場した。ただ、メカニカルトラブルが頻発して、あるブレーキトラブルでこの車への信頼をなくしてしまった。けれど輝かしいヒストリーを私たちが伝えると、慎重にレストアしてチャンピオンになった1966年の仕様に戻そうということになったんだ。オドメーターは1万2000kmを超えたところで、レースキャリアは短いしアメリカでもあまり使われていなかったようだから、メーター通りである可能性は高かった。予想は的中して、裸にしてみたらボディシェルは驚くほど状態がよくて、ダメージはまったくなかったよ。オリジナルではない付属品やオーバースプレーも見つかって、再塗装の様子やどこを部分にレストアしたのかについても確認できた。下塗りが施されていたことも判った。リアの車軸に付くスライディングブロックのブラケットのところなんて、オリジナルのアウトデルタのパーツの上にそのまま塗り重ねてあったんだ」

下塗りは土やグリースの上に吹き付けられた部分から剥がれ始めていて、剥がれた部分にはスプレー塗料で応急措置がなされていた。内側のフロアには、ざらつきのあるペイントが施されていた。ボディシェルをファクトリー仕様に戻すには、地金の状態に戻してから正しいAR501レッドで全体を塗り直し、その上で外側をチーム・スロートマーカーのカラーリングにする必要があった。

「当時の写真を見ると、ホイールアーチの裏側は白だった。ということは、その部分の赤い塗装はオリジナルの色じゃない。オリジナルの赤が見つかったのは、フロントのバンプストップの下。以前のレストアのときには取り外さなかったんだね」

アルミ製のボディは、下塗りを取り除いてから剥離剤を使い、地金の状態に戻した。次に2カ所あった小さな腐食に手を入れた。フロアパンのフロント側に、以前のレストアで腐食を修繕した跡が見つかった。そうした部分をそっくり交換するのではなく、オリジナリティを保つために元々のパネルを極力生かしながら作業が進められた。そして必要な作業をすべて済ませ、ようやく新たな塗装を施せる状態になった。

「目的はチーム・スロートマーカーがチャンピオンを獲ったときのカラーリングと仕様に戻すことだったから、表も裏もフラットでピカピカした鏡面仕上げにするつもりはなかった。塗装はスプレーガンで直接吹き付け、ポリッシャーを軽くかけただけ。当時とほとんど同じだよ。当然、レース前のやっつけ仕事より水準は遙かに高いけどね」

マックスは、このGTAが持つヒストリーを堂々と残すことにしたのだという。

「内側のパネルやシャシーにあった元々の傷やへこみを、埋めたり隠したりはしないように気をつけた。すべてこの車のレーシング・ヒストリーだからね。それに内側のパネル用に特別な組成の塗料を作って、アウトデルタの仕上がりと同じになるようにした。くすんだ色で、ピカピカにはならないものだ。ファクトリーを出たときには赤いカラーリングだったから、内側はすべて赤にペイントし、外側だけチーム・スロートマーカーのカラーリングにした。このGTAがオランダに送られた1966年の工程をなぞったんだ」


チーム・スロートマーカーのカラーリングが施された状態。

編集翻訳:嶋田智之 Transcreation:Tomoyumi SHIMADA 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Glen Waddington Photography:Mitch Pashavair Special Thanks:Alfaholics www.alfaholics.com.

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