栄光と悲しみに満ちた、あるレースカーの数奇な運命|アルファロメオ・ジュリア・スプリントGTA

1965年式アルファロメオ・ジュリア・スプリントGTA(Photography:Mitch Pashavair)



ボンネット下のエンジンも機能は万全だ。けれど新品のようにピカピカではないし、不必要に交換したものも一切ない。

「走行距離が短いとはいえ、メカニカルパーツは50年前のものだからね。いったんバラバラにして、そのまま組み立て直してもいいものか、念入りに検査した。それもこのGTAの貴重なオリジナリティを保つためだ」

マックスの言葉とおり、エンジンは分解されてクラック試験を受けている。ベアリングは新品に交換し、バルブスプリングはシム調整を施したが、ピストンとピストンリングはオリジナルのままだ。ギアボックスも分解し、マグネシウム製ケーシングにX線検査を行った。結果、ベルハウジングに亀裂が見つかったために溶接して修繕し、新しいベアリングやシンクロとともに再び組み上げた。車体下部のアウトデルタ製鋳造パーツも、表面をすべて仕上げ直し、以前のサンドブラストによるダメージを取り除いてから組み立て直している。

ATE製のブレーキは、オリジナルと同じダンロップ製のものに交換した。「でも、モディファイされた車軸ケースはそのまま活かした」とマックス。どのGTAもそうだが、この車にも"スライディングブロック"装置が付いている。デフに取り付け、コーナリングで負荷がかかっても車軸が上下方向にのみ動き、横方向には動かないようにするためのパーツだ。おかげでタイヤのグリップが一定に保たれる。こうしたサスペンションのパーツもすべてブラスト加工し、パウダーコーティングを施してから、再コーティングしたオリジナルのLOBO製ボルトで組み立て直した。

エクステリアやインテリアも、こだわりに満ちている。たとえば、ウィンドウ周囲のステンレストリムだ。独特の柔らかな光沢がある。「ピカピカに磨き上げるのではなく、スティールウールで綺麗にしたんだ」という。ランプのユニットも純ファクトリーパーツのカレロ製で、クリーニングした上で再度取り付けている。軽々と開くドアの内側の、コクピット側のトリムが美しいことにも驚いた。「ドアとクォーターパネルの詰め物は崩れてしまっていたから、オリジナルの合皮カバーを丁寧に外し、裏打ちの合板を清掃して新しい詰め物を入れ、また元のカバーで覆ったんだ」とマックス。ダッシュボードも取り外して清掃こそしているが、ヴィム・ロースがドライブした当時のものだ。ステアリングのウッドリムには使い込まれた風合いがある。スポークの上端には、緑の絶縁テープで巻いた小さなパッドが付いている。アルミ製スポークの硬いエッジに親指が当たらないよう、当時、ロースが小さな工夫をしたのだろう。

1周でいいから、もう一度走りたい
いよいよ私が試乗するときが来た。エンジンに火を入れると、わずか1.6リッターの4気筒エンジンとは思えないほどの勇ましいサウンドが響き始める。エグゾーストパイプの末端が車体側面に顔を出しているので、煩いなんてものじゃない。バケットシートは体をしっかり支えてくれ、握るステアリングの手触りも心地よい。シフトレバーはかなり長いが、オイルが効いていることもあって実に滑らかに動き、簡単に1速に入った。トルクがたっぷりとあるから、スロットルをくすぐる程度で動き出す。エンジンはすぐに本領を発揮し、途切れることなく轟音を放ちながら、回転数をぐんぐん伸ばしていく。そう、このエンジンこそがGTAの魅力を大きなものにしている立役者なのだ。

よく知られているように、GTAの"A"はイタリア語の"alleggerita"、軽いの略であり、それは軽量化済みであることを意味している。ジュリア・スプリントGTをベースにして、フロアや前後のバルクヘッドなど強い応力のかかる部分を除き、ドアやボンネット、トランクなどはもちろん、ルーフパネルやリアクォーターパネルまでアルミニウムのパネルに換えたおかげで、標準的なジュリア・スプリントGTよりも200kg以上軽い745kgになった。翼を授かったようなものだろう。さらにアウトデルタが組み上げたレースカーは、車体やサスペンションを強化しながら、そこからさらに50kg近くの軽量化が図られたともいわれている。その軽さが、GTAをサーキットでの成功に導いた大きな要因であったことは間違いない。

メカニカルパーツの古さにも関わらず、エンジンのオーバーホールは小規模ですんだ。ピストンリングですらオリジナルのものがそのまま使われている。ドライバー側のドアのすぐ下にエグゾーストパイプの末端が突き出している。それはドライバーを大いに喜ばせるが、とても1.6リッターの4気筒とは思えない轟音だ。

編集翻訳:嶋田智之 Transcreation:Tomoyumi SHIMADA 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Glen Waddington Photography:Mitch Pashavair Special Thanks:Alfaholics www.alfaholics.com.

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