栄光と悲しみに満ちた、あるレースカーの数奇な運命|アルファロメオ・ジュリア・スプリントGTA

1965年式アルファロメオ・ジュリア・スプリントGTA(Photography:Mitch Pashavair)



だが、このエンジンの素晴らしさときたら、どうだ?ストックの状態で115bhpを発揮するツインプラグユニットは、アウトデルタがレース用のチューンを施したものだと160〜170bhpに達していて、この1600GTAコルサも同様のレベルのチューンを受けている可能性が高い。そう確信できるほど、惜しみなくパワーを溢れさせてくる。こんなエンジン、そうはない。わずか4気筒にもかかわらず、マルチシリンダーにも負けない豊かなサウンドを奏でるし、とても1.6リッターとは思えないほどの強力なパワーとトルクを味わわせてくれるのだ。そして吹け上がりも鋭く、スロットルペダルを踏み込むほどに勢いを増していくが、かといって決して高回転域だけのエンジンというわけでもない。2000rpmでもしっかりと力があるから、パンパンと火を噴きながら低回転域で長く辛抱する必要もないし、うっかりシフトミスしたとしてもパワーの空白地帯に落ちる心配がない。

とはいえ、このギアボックスなら、まずシフトミスはしないだろう。シフトは正確に入るし、先述のとおり動きが非常に滑らかなのだ。ステアリングも同様で、コーナリングの最中にも重くなることがない。ひとたび本気で走り始めれば即座に生き生きとし始め、路面からの情報をたっぷりと伝えてきて、ミリ単位で操作に反応する。

全長は4mほどで車幅は約1.5mと小ぶりだが、挙動は信じられないほど安定している。リアアクスルが固定されていることもあってテールがズルズルとルーズになることはないが、かといってアンダーステアが強くなることもない。たいていはニュートラルの状態で、恐る恐る走らなくてすむ。ドライバーに自信を与え、1周するごとにさらに攻めていけるのだ。

けれど、エグゾーストがあまりにも大音量なので、さすがに1日中楽しんでいるというわけにもいかない。このサーキットはとても素晴らしいのだが、ここ20年ほどは多くのイベントを断ってきている。中世の優美な佇まいが残されているカッスルクームの村の人達が望むのは、静かで長閑な暮らしなのだ。私は誰の機嫌も損ねたくはないので、アルファがすっかり温まったところで、スローダウンしてパドックに引き返した。

運転席から降り、ドアを優しく閉める。何と素晴らしい車なのだろう。背負うストーリーも一流だ。私はマックスとアルファホリックスのスタッフ達に感謝しなければならない。そう感じる私の耳の奥で、エグゾーストノートがしばらく響き続けていた。そして1周でいいからもう一度走りたい……という想いが、それ以上長い時間、胸に残ったのだった。

1965年式アルファロメオ・ジュリア・スプリントGTA(ストラダーレ仕様を記載)
エンジン:1570cc、4気筒、DOHC、ツインスパークプラグ、ウェバー製キャブレター×2基
最高出力:115bhp/6500rpm 最大トルク:15.2kgm/4000rpm
変速機:前進5段MT+後退、後輪駆動 ステアリング:ウォーム&ローラー
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、
テレスコピックダンパー、アンチロールバー
サスペンション(後):リジッドアクスル、ラジアスロッド、スライディングブロック、
コイルスプリング、テレスコピックダンパー
ブレーキ:4輪ディスク 車重:745kg
最高速度:193km/h 0-100km/h加速:8.5秒

編集翻訳:嶋田智之 Transcreation:Tomoyumi SHIMADA 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Glen Waddington Photography:Mitch Pashavair Special Thanks:Alfaholics www.alfaholics.com.

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