なぜアルファロメオの「デイトナ」はル・マンでトップ3独占という快挙を成し遂げられたのか?

取材協力:Fiskens(www.fiskens.com)からティーポ33/2を借用した。またアスカリ・レース・リゾート(www.ascari.net)での撮影をアレンジしていただいた。(Photography:Paul Harmer)



耐久レースで成功を収めた本当の理由
このように、いくつかの分野では開発当時の技術的な限界を感じないわけにはいかなかったいっぽうで、現代の車に比肩するパフォーマンスを有している部分もあった。ブレーキはその代表で、傑出した性能を誇る。4輪ベンチレーテッド・ディスクの恩恵で思いのままに減速できるが、悪名高い6速ドグクラッチ・ギアボックスは素早いシフトダウンを拒むことがあるほか、どのようなスタイルのトレーリング・ブレーキも受けつけないダンロップのトレッド・パターン付きポースト・ヒストリック・タイヤのキャラクターも好ましいとはいえない。メインテナンス・ガレージの手により、ギアボックスのインターナルに設計変更が加えられ、ていねいな調整によってはるかに状況は改善された結果、ドライバーが感じるフラストレーションは大幅に軽減されたとはいえ、引き続きラップタイムを伸び悩ませる原因となっていることは間違いないだろう。

ところが、おかしなことにこの問題は私の側に原因があるという議論になってしまった。近年、この車でレースに出場したアマチュアドライバーたち("ジェントルマンドライバー"という呼び方もあるが、そのなかにはこれに反発する向きもあれば歓迎する人々もいる)は、いずれもアルファが生み出した作品を賞賛するばかりだという。彼らは、私と同じようにハンドリングがオーバーステア傾向にあるとは指摘するものの、レーシングカートを思わせる鋭いレスポンスを前向きに捉えているようなのだ。連中は、ときにはギアチェンジをミスすることもあるだろう。ラップタイムにしたって、私たちのようなプロに比べれば秒単位で遅いはずだ。

けれども、大切なのはそこではない、ともいえる。33/2を無理矢理締め上げて、ラップタイムの最後のコンマ1秒を削り取ろうとすれば、必ずしやしっぺ返しを食らうことだろう。だから、ひとつひとつのコーナーをいかに速く走り抜けるかに血道を上げるよりも、ほんの少し車を労り、フィニッシュを目標に走り続けたほうが、このダイナミックで甘美なまでにバランスされたマシンの速さとスタミナを引き出すには有効なのかもしれない。

そしてそれこそが、メカニカル・トラブルの発生を抑えるという、当時の耐久レースで勝利を収めるうえでもっとも重要な課題の克服に役立ったともいえる。33/2が傑出して優れた耐久レーサーであった最大の理由は、おそらくこの点にあったのだろう。

1968 アルファロメオティーポ33/2 デイトナ クーペ
エンジン:1995ccV型8気筒、4OHC、ルーカス製機械式燃料噴射
最高出力:270bhp/9600rpm
ギアボック:6段MT、後輪駆動 ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、
オーバーテレスコピックダンパー、アンチロールバー

ブレーキ:ベンチレーテッド・ディスク、アウトボード(前)、インボード(後)
車重:580kg(乾燥重量) 性能:最高速度162mph(約259km/h)

取材協力:Fiskens(www.fiskens.com)からティーポ33/2を借用した。またアスカリ・レース・リゾート(www.ascari.net)での撮影をアレンジしていただいた。プロフェッショナルのレーシングドライバーであり、ヒストリックカーのコーチやコンサルタントも務めるサム・ハンコック(www.samhancock.com)は、かつてル・マン・シリーズのLMP2クラスでチャンピオンに輝いたほか、LMP1とGTクラスでアストンマーティンのワークスドライバーを務めたこともある。これまでに通算7度ル

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Sam Hancock Photography:Paul Harmer

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