なぜ半分だけレストア? 「美術品」や「遺跡発掘品」として扱われたアルファロメオの奇跡の保存状態

完成後のSZザガート。(Photography:Archivio Zagato-Carrstudio)



ディ・タラントは続けてこう語った。「マイケルは車が見つかったことを私に知らせるために電話をかけてくると、すぐにコレクターのコラード・ロプレストの連絡先を尋ねました。彼の目から見て、これほどまでにも完璧にオリジナルのコンディションを維持したイタリア車のプロトタイプについての歴史的価値を理解することのできる唯一の人物が、ロプレストだったのです」

しかし、彼が電話をかけたとき、受話器の向こうから伝わる反応は、予想に反し冷静なものだった。その時のことについて、ロプレストはこう語っている。

「最初、あまり興味がなかったことは事実です。スポーツカーは私の趣味ではありませんし、つぎはぎだらけで奇妙なメカニクスが施されたような、よくある古いレーシングカーを想像していたからです。しかしパオロが私を説得し、車を見に行くことを私に決断させるまで、ほとんど時間はかかりませんでした。彼が見せてくれた数枚の写真を見てすぐに、その歴史的価値とコンディションの良さがわかったからです」

「私はコーダ・トロンカプロジェクトに発想を得てカムテールを使用した最初の市販モデルとなったジュリア"105系"のスタイリングプロトタイプを2台、そしてスカリオーネが開発したSSのプロトタイプを所有しています。ですから、このコーダ・トロンカのプロトタイプは、私のコレクションにまさにうってつけだったのです」

数週間後、ロプレストとディ・タラントは、マイケル・ローウェンとともに車を見にいくため、アメリカへ飛んだ。ロプレストはその時のことをこう語っている。

「私が何を予想していたのかは覚えていません。ただガレージで実際にその車を見て、そしてありとあらゆるディテールがザガートの工房で改良が行われた後の状態のまま維持された素晴らしいコンディションを目にして、私は背筋がぞくぞくするような興奮を感じました」

レストレーションが始まる
コラード・ロプレストは建築家であり、若い頃からクラシックカーに加え、1600年代の絵画や彫刻を中心とした美術品を収集している。二つの世界において最も著名なコレクターのひとりであり、状態の維持と敬意を払った復元における第一人者として知られている人物だ。

「美術の世界においては、可能な限りオリジナルの状態を残すことが絶対です。リタッチはすべて原作を損なわないよう行う必要があり、これは彫刻においても同様です。たとえば、カラヴァッジョの絵画を復元するときは、多くの作品において彼が木製の筆の柄を使用して構図の一部を刻み付けた輪郭線が絵の具の下にあることを知っていなければなりません。あまり強く作品の汚れを取ろうとすれば、その線を消してしまうリスクがあるからです。車のレストアは違います。コンクールの審査員の基準を満たすためには、過去の痕跡をすべて消し去り、新車に勝るほど美しくなるまで再塗装し、内装を張り替え、パーツを組み立て直さなくてはなりません」と、ロプレストは考えを述べ、さらにこう続けた。

「アメリカから帰国するとき、そして車がイタリアへ戻ってくるのを待つ間に考えた結果、私は重要な決断をしました。このザガートのレストアに当たっては、現在、クラシックカーに使われる方法は使用せず、"貴石加工国立修復研究所"の手に委ねられた美術品であるかのように扱うということです」

この貴石加工所は、ウフィツィ美術館と直接的なつながりを持ち、重要な美術品の修復において世界最高水準を誇る機関である。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Massimo Delbo Photography:Archivio Zagato-Carrstudio

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