なぜ半分だけレストア? 「美術品」や「遺跡発掘品」として扱われたアルファロメオの奇跡の保存状態

完成後のSZザガート。(Photography:Archivio Zagato-Carrstudio)



「しかし、非常に驚きであったことは、私の意見を求めた友人のほとんどが、乗り気にならず、支持してくれなかったことです。彼らは皆、その歴史的な重要性をもってしても、そのような車が賞を取ることは決してない。価値を審査員は理解しないからだと言いました。私は気持ちを切り替え、このプロジェクトにふさわしい人材を選びました。これは通常のレストアとは異なり、最終的な仕上がりが明確で、なおかつ決められた日までに完成する必要がありました。職人たちは日々新しい解決策を模索しなければならず、多くの忍耐が要求されました。オーナーも同じです。ただ月末に小切手を切るだけの作業にとどまらず、あらゆる決定にいつもよりはるかに深く関与し、ワークショップに出向かなくてはなりませんでした」

ロプレストは考古学も取り入れた。
「新しい遺跡が発見されると、半分は手つかずで残します。それは次世代になり新技術が開発されれば、人の手に侵されていない部分を調査することができ、新たな事実が発見される可能性があるからです。そのため私は車の半分だけをレストアし、残りの半分はスポンジで簡単に落とすことのできる透明なマット塗料を薄く塗り、その下に埃を含めすべてを時の中に凍結し、発見されたままの状態で残すことにしました」

「この作業はショーの最中に突然雨が降ってもすべて保存できるよう考慮したものです。レストアを施した半分については、特別なゴム系接着剤を充填した注射器を使い、剥がれそうな塗料の薄片すべてを貼り付けてから、洗い流して磨きました。磨くときは研磨ディスクによる機械的な方法ではなく、湿式タイプのサンドペーパーを使いました。時間のかかる作業ですが、オリジナルの塗装に対するダメージがはるかに少なく、手間をかける価値があります」

だが、慎重なクリーニング作業以上に厄介なことがあった。

「溶接が必要な箇所があり、これが新たな壁となりました。周辺にある、またはすぐ上にあるパーツの塗料を焼かないように溶接しなければなりません。そこで役に立ったテクノロジーが特別なピンク色のペーストです。塗布するとその部分が"凍結"され、小さな金属片の塗料面を焼くことなく裏側だけを溶接することができました」

その他にも、現在では再現することのできない極薄の保護ファブリックで覆われた当時のラバーシールなど数々の困難に直面した。また、深い傷が入ったプレクシグラスには、この作業専用に作られたローションを施す必要があった。湾曲したプレクシグラスはザガートのトレードマークで、レプリカと本物の違いを語る際に使用されることが多い。さらに現代のプレクシグラスは1960年代のものよりも厚く剛性が高い。そのためSZのウィンドウを交換することはできず、劣化したオリジナルのプレクシグラスを修復するしかなかった。シートのレザーからマットのラバーまで、あらゆるパーツを当時そのままに保存するよう、インテリアにも同様の慎重な作業が行われた。

SZ"ティーポ・アバッサート"は、2016年のコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステに出場することを目標としていた。ロプレストたちは信念を貫いてこのレストアに当たったものの、コンクールではどのように評価するのか、不安でもあった。だが、ジャッジたちはロプレストたちの考えを支持した。2016年、ユネスコが後援する「FIVAワールド・モータリング・ヘリテージイヤー」の"Best Preserved Vehicle:最もよく保存された車"のプライズに、"00170"を選出したのだ。権威あるコンクール・デレガンスで、世界的なクラシックカー組織であるFIVAからの高い評価を得たことは快挙だ。今回の受賞によって、エンジニアリングからではなく、美術界の手法を取り入れたクラシックカーのレストアという、新しいアプローチが切り開かれたのは間違いないだろう。

1960年アルファロメオ SZコーダ・トロンカ・プロトタイプ
エンジン:1290cc、4気筒、DOHC、ウェバー製ツインチョークキャブレター×2基
最高出力:100bhp/6500rpm 変速機:5段MT、後輪駆動 ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前):ダブル ウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、スタビライザー
サスペンション(後):リジッドアクスル、コイルスプリング、テレスコピックダンパー
ブレーキ:ディスク 車重:770kg(ドライ) 最高速度:137.5mph (約220km/h)

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Massimo Delbo Photography:Archivio Zagato-Carrstudio

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