ポルシェ史上もっとも美しいとも評される「カレラGTS 904/6」の魅力とは?

1965年ポルシェ・カレラGTS 904/6(Photography:Charlie Magee)



先にアンディがコクピットに乗り込む。フラット6に火を入れ、丁寧にウォームアップする。やがて彼が2基のウェバー・トリプルチョーク46IDAにそれまでより少しだけ余計に"ジュース"を流し込むと、ピットレーンにいた誰もが立ち止まってこちらを振り返った。排気量1991ccのエンジンから甘く、そして伸びやかな咆吼があたりに響き渡ったのである。その音はわれわれを魅了したものの、マシンはまだ動き出してさえいない。これに比べれば、最新モデルに搭載されたダウンサイジングエンジンのエグゾーストノイズなど、取りに足らない存在というべきだ。

シートベルトを締め上げたアンディがコース上を走り始めると、まるで映画音楽のように美しいサウンドが1.979マイル(約3.17km)のナショナル・サーキットを包み込んだ。潔く断ち切られたテールパイプは、北欧神話に登場するワルキューレたちが挙げる「鬨の声」の前にはまったく無力のようである。ほどなくするとアンディがピットに戻ってきて、マシンから飛び降りた。「最初はスロットルの動きが渋く感じられるかもしれないが、これは調整の範囲。グリップはまるでなくて、タイヤをウォームアップさせることができなかった。ブレーキ・バランスにも注意が必要だ。それを除けば、エンジンは全回転域でスムーズに回るが、今日はまだランニングインなので6000rpmをリミットにしてくれ。さあ、今度は君が走ってこい…」

実に素晴らしい。スロットルが渋くて、タイヤは氷のように冷え切っていてグリップせず、ブレーキはあてにならない。それがどれだけのものというのだ。私はタイトなコクピットに乗り込み、コーデュロイで覆われたバケットシートに収まった。

ドライビング・ポジションはゆったりしていて、ペダル類やステアリングの位置はドライバーの好みに調整できる。ペダルは中央寄りにオフセットしているが、サイズが適切なのでヒール・アンド・トゥをするには申し分ない。レザーを硬く巻き付けたモモのステアリングホイールは、手前側にほぼ垂直に取り付けられており、VDO社製メーターの視認性は良好。シフトレバーは短めで、前後方向の動きは大きく、傾けて手前に引くと1速に入る。

燃料ポンプを回してウェバーにガソリンを送り込み、スロットルを軽く踏み込んだ状態でフラット6を目覚めさせる。音量はうるさいが、その音色は実に品がいい。史上最高のエンジンといって間違いないだろう。クラッチは重く、ストロークは短い。ギアポジションは不明瞭だが、間違いなく1速に入っているはずだ。フライホイールが極端に軽いため、発進させると904/6はまるでどこかから飛び降りたかのような勢いで走り始めた。そしてドライバーがエンジンに直接くくりつけられているような錯覚を覚えながら、その飛翔体は鋭く加速していった。

ラック・ピニオンのステアリングは驚くほど軽く、またダイレクトで、1コーナーへのアプローチではブレーキペダルに軽く触れただけで急減速を開始する。そろそろ動きの渋いスロットルペダルを深々と踏み込むことにしよう。すると、904/6は何の遅れも感じさせずに、即座に加速を始めた。ウェバーのスロットル・バタフライが開かれると、ポルシェは生命が吹き込まれたかのように振る舞い始める。私は泣き叫ぶようなサウンドが聞きたくて、何度も何度もリミットの6000rpmまでフラット6を引っ張った。

コーナーではややアンダーステアを示すが、アンディによればブレーキをわずかに残し、リアを少しスライドさせながら脱出するのがもっとも速い走り方らしい。いずれにしても、初期の911よりもバランスが良好で、はるかに扱いやすい。それでいながら、ロードカーとしても抜群に楽しかったことだろう。

904/6は、そのスタイリングとサウンドの点においてもっとも美しいポルシェであることは間違いない。そしてこのファクトリーマシンをひとつの起点として、彼らはスポーツカーレースの頂点へと駆け上がっていったのである。

1965年ポルシェ・カレラGTS 904/6
エンジン形式:1991cc、空冷水平対向6気筒、SOHC、
ドライサンプ、デュアル・イグニッション、

ウェバー・トリプルチョーク46IDAキャブレター×2基
最高出力:180bhp/7200rpm 最大トルク:160lb-ft/5500rpm
トランスミッション:5段MT、後輪駆動 ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイル・ダンパー・ユニット、アンチロールバー
サスペンション(後):ウィッシュボーン、コイル・ダンパー・ユニット、ロワーリンク、
ラジアスロッド、アンチロールバー
ブレーキ:ディスク、サーボアシストなし 車重:675kg
性能:最高速度160mph(約260km/h)、0-60mph(0-96km/h)加速5.5秒

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Robert Coucher Photography:Charlie Magee

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