レストアという「老古学」。フォードGT40を忠実にレストアした名工がたどり着いた境地

1966年フォードGT40マークII A(Photography:Erik Fuller)

1966年にル・マン24時間レースを制したGT40 P/1046が、あの有名なブラックとシルバーのボディワークを脱ぎ、作業台の上でくすんだブルーのシャシーをさらしている。ここはアメリカ北東部、ニューイングランド地方の片田舎に建つレストアショップ「レア・ドライブ」だ。シャシーを見つめるのは、ショップオーナーのマーク・アリン。その目は、白いカンバスを前に作品を構想する芸術家というより、発掘した遺物を吟味する考古学者のものだ。

アリンはこう語る。「私はレストアラーだから、想像力は使わない。ホットロッダーとは違う。自分のビジョンで何かを創造しようしているわけじゃない。私はただの模倣者だよ。歴史の保存がなにより大切だ。自分がレストアした車が納屋に仕舞い込まれたら、50年後に引っ張り出した人がオリジナルだと思う、それが私の望みだ。目標は、先人の仕事を正確に再現すること、それも、隅々までね」

コンクール・コンディションのレストアを依頼されたら、シャシーを塗装する際には、ドアのヒンジやキャッチを外した状態で行うのが慣例だった。だが、アリンは見栄えよりもオリジナルに忠実であることを重んじる流派の先駆者だ。したがって、すべてを取り付けた状態で塗料を吹き付けた。それが1966年にシェルビー・アメリカンで行われた作業だからだ。当時の写真を見ると、ホーリー製キャブレターを囲む断熱材にしわが寄っていた。だから、アリンは新しい断熱材もあえてしわを寄せて貼った。"ミートボール"と呼ばれるカーナンバーをボンネットに描く際には、継ぎ目に垂れたペイントまでも正確に再現した。

「カーナンバーをペイントした人がこれを見て『なんてこった!ヘマをして垂れたペンキが残っているぞ』と言ってくれたら本望だ。車を造った人たちの心理状態まで示したいんだよ。この場合は"大急ぎでカーナンバーを付けろ!"という光景だ」

「すべてを完璧にやることも可能だ。ネジを残らず一直線に並べ、あらゆる留め金をピカピカに仕上げることもできる。だが、それは当時やったこととは違う。自分の技術を証明してやろうと頑張っているんじゃない。当時と同じものにしようと努力しているんだ」

アリンは、残っている写真を執拗なまでに研究し、製造から加工、溶接、塗装、グラスファイバーに至るまで、優れた技術を総動員した。こうして可能な限り近づけたのは、GT40 P/1046が1966年6月18日の土曜日、午後4時にサルト・サーキットのグリッドに着いたときの姿だ。その24時間後、3009マイルを走破したのちに、このフォードGTマークII Aはブルース・マクラーレンとクリス・エイモンの手で、物議を醸した1-2-3フィニッシュの先頭を飾った。それは、フォードにとっては国際舞台における最も重要な勝利であり、今日まで続くファクトリーチームでのレースモデルが誕生した瞬間でもあった。

モータースポーツ史上最も偉大なシャシーを1台選ぶのは至難の業だ。だが、1046がその最終候補に残るのは間違いない。

原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Preston Lerner Photography:Erik Fuller 取材協力:ロブ・カウフマンとジョセフ・キャロル(www.rkmotorscharlotte.com) マーク・アリンとキャリー・アリン(www.raredrive.com)

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