レストアという「老古学」。フォードGT40を忠実にレストアした名工がたどり着いた境地

1966年フォードGT40マークII A(Photography:Erik Fuller)



栄冠のあと
優勝後は、別のフォードGT数台が黒に銀のストライプに塗り直され、ショーカーとしてアメリカ各地に送られた。1046のエンジンと電気系統は取り外され、大きな木のボードに載せて展示された。一方、シャシーのほうは1966年末までさまざまなテストに使用され、その後、ホフマン・ムーディーでマークII B仕様にコンバートされた。ダッシュボードが新しくなり、ブレーキとタイヤは拡大、リアのボディワークも幅が広がり、新たにトンネルポートヘッドのエンジンと4バレルキャブレター2基を装備。さらに、頑丈なNASCAR風のロールケージも取り付けられた。この仕様で一度だけ出走したのが1967年のデイトナで、レースをリタイアで終えると、それきり表舞台から姿を消した。

その後、GT40 P/1046は何人かの手を経てベルギーに行き着き、バックカメラ付き(!)のロードカーに姿を変えていた。これをシェルビー・アメリカンのエンスージアストとして知られるアメリカ人のジョージ・ストーファーが1982年に購入。レストアしてヒストリックレースに参戦していたが、2010年にコレクターのアーロン・スーに売却した。そして2014年にロンドンのハンプトンコート宮殿で行われたオークションの出品リストに掲載されたところを、オークション開催前に現オーナーのカウフマンが購入した。カウフマンは熱心なヒストリックカードライバーで、現代のル・マンにもフェラーリ458で出走したこともある。また、同時期にチップ・ガナッシ・レーシングの株主にもなった。チームは現代のフォードGTを4台擁して、FIA世界耐久選手権とIMSAスポーツカー選手権に参戦している。

栄冠を得たときの姿に戻すという選択
クラシックカーに手を加えずに"保存"する近年の流れは、カウフマンも大いに賛同するところだ。しかし、1046の場合は多くのモディファイが加えられ、何度かレストアを受けていたため、別のアプローチが必要だった。カウフマンは、コレクター界の"賢者"であるマイルズ・コリアーやフレッド・シメオネらに助言を仰いだ末に、この車のヒストリーで最も重要な時点、1966年のル・マン出走時の姿にレストアすることを決めた。そのプロジェクトを任せるのに、マーク・アリン以上の人物はいなかった。

アリンは49歳のニューイングランド育ちで、赤毛の無精ひげを生やし、巧妙なマシンに目がない実直な人物だ。快活な妻のキャリーとともに2001年にレア・ドライブを立ち上げた。ショップはニューハンプシャー州のイーストキングストンにある。ボストンから1時間ほど北にある小さな農村だ。スタッフは8人で、充実した装備を誇る1万平方フィートの建物は、以前はデソートのディーラーだった。アリン一家はその2階に3匹の犬と住んでいる。

「マークは日曜の朝に寝間着で降りてきて溶接をやったりするよ」とカウフマンは話す。

原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Preston Lerner Photography:Erik Fuller 取材協力:ロブ・カウフマンとジョセフ・キャロル(www.rkmotorscharlotte.com) マーク・アリンとキャリー・アリン(www.raredrive.com)

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