レストアという「老古学」。フォードGT40を忠実にレストアした名工がたどり着いた境地

1966年フォードGT40マークII A(Photography:Erik Fuller)



アリンは輝かしい実績の持ち主で、300SLや、戦後すぐのイタリアン・スポーツカー、レーシング・ポルシェなどのレストアで知られる。中でも情熱を注いでいるのがコブラを初めとするシェルビー・アメリカンの車だ。フォードGTマークIIはすでに3台レストアしたことがあり、待ち受ける数々の難題も経験済みだった。到着した1046は、18カ月かけて徹底的なレストアを行う予定だったが、その割に状態はよさそうだった。カウフマンが短いドライブを楽しんだのちに、いよいよ分解してみると、うれしくも意外なことに、サスペンションはオリジナルのままで、それも素晴らしいコンディションだった。シャシーも同様で、例外はホフマン・ムーディーのロールケージとそのためのモディファイだけだった。だが、おかげでロールケージ・マウントの下にオリジナルの青いペイントが見つかった。その部分は残して、オリジナルと異なる黒のペイントをブラスト処理し、残した部分に合わせて正しい色に塗り直した。

1967年式T-44ギアボックスは、1966年式とケースがわずかに異なるだけなので、そのまま残した。エンジンは、ヘッドとクランク、ディストリビューター、鋳造アルミニウム製ウォーターポンプ、フォード・レーシング製オルタネーターとスターター、めずらしいアルミニウム製ダンプナーがすでに当時のものになっていた。しかし、他の内部パーツやシリンダーブロックは1966年製を探し出さなければならなかった。耐久性を優先して、コーティング・ベアリングと高品質のヘッドボルトは採用したが、パフォーマンス目的のアップグレードは行わなかった。「キャリロ製コンロッドも、ローラーロッカーアームも、チタンバルブも一切使わなかった」とアリンは話す。リビルドされたエンジンはダイノで490bhpを計測。当時の計測値は485bhpだった。

アリンとクルーは、さまざまな新古品や同時代のパーツを探し出した。ヘッドライト、マルチプレートクラッチ、4バレルでメカニカルセカンダリーのホーリー製キャブレターなどだ。フロントウィンドウのワイパーモーターはボーイング707のものだった。新たに製造したパーツも多い。とぐろを巻くエグゾーストパイプ(レア・ドライブに長く勤めるバーン・ケニヨン曰く「長いこと溶接していたよ」)や、ウォーターパイプ、ブレーキダクトに加え、ブラケットやシートメタルパーツなども山ほど製作した。リアのボディワークはオリジナルのものだったが、グラスファイバーのドアとノーズ、結晶塗装のダッシュボードは型から作り直した。

しかし、悪魔は細部に潜んでいたとアリンは話す。「いろいろな理由でシャシーに開けられたドリル穴を800万個(むろん冗談だ)はふさいだね。誰かが消火システムをこっちにネジ留めし、別の誰かが新しいブラケットをあっちに取り付け、といった具合だ。そうかと思うと、前のレストアでロウ付けした塞いだ穴をまた開けなきゃならないこともあった」こうした長年のモディファイを別にしても、シェルビー・アメリカンが仕上げたフォードGTは、1台1台すべて異なる。

「あらゆる点において、2台と同じ車はない。違う人間が造ったからだ。ある溶接部を1インチにする者もいれば、1.5インチにする者もいたし、こっちにリベット穴を開ける者もいれば、もっと近くに開ける者もいた」とアリンは話す。

原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Preston Lerner Photography:Erik Fuller 取材協力:ロブ・カウフマンとジョセフ・キャロル(www.rkmotorscharlotte.com) マーク・アリンとキャリー・アリン(www.raredrive.com)

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