栄光のル・マンを再び走った「ポルシェ911RSR」に試乗してわかった量産型911との決定的な違い

1973年ポルシェ911カレラRSR R7ル・マン・カー(Photography:Jamie Lipman(studio),Martyn Goddard(Le Mans))



2周目に入ると、絶好の機会を祝うかのようにアルピーヌとローバーBRMを抜き去った。ファン・レネップの説明は弁解めいていた。「この車はゆっくり走るのが好きじゃないんだ。でも、7500rpmまでしか回していないよ。そっちからは8000に見えるだろうけどね」

私はといえば、素晴らしい感覚にすっかり酔いしれていた。サウンドと視界は慣れ親しんだ911のものだが、スピードだけを追い求めたパラレルワールドなのだ。無駄を削ぎ落としたダッシュボードには1万rpmまでのレブカウンターが鎮座する。上面には反射を抑えるファブリックが敷かれ、ステアリングはMOMOのプロトティーポだ。ロールケージは意外に簡素だが、シートはレース用のバケットシートで、インテリアトリムはほとんどない。すべてが1973年のままで、そこに42年の時を重ねた円熟味が加わっている。「いい味わいが出ているね。レストアするべきじゃないな」とファン・レネップも言う。

RSR誕生の経緯
量産型911がどのようにして"プロトタイプ"RSRに生まれ変わったのだろうか。ポルシェは917に続くレーシングカーのベースにする目的で、2.7 RSカレラをホモロゲーションスペシャルとして開発済みだった。これを元にRSRではエンジンを2806ccに拡大。フロントには改良した軽量のグラスファイバー製バンパーを装着し、そこにオイルクーラー用インテークを設けた。ワークスもカスタマーもこの仕様でレースに参戦していたが、その後、3.0リッター(のちにロードカーにも搭載された2994cc)のエンジンを得て、出力が300bhpから315bhpに向上した。

ポルシェはワークスチームがカスタマーチームを踏みつぶすことをよしとしなかった。そこで、プロダクションクラスはプライベートチームに譲り、ワークスチームはRSRの開発をさらに進めてプロトタイプクラスに参戦することにしたのである。ファン・レネップはこう振り返る。「ポルシェはプロトタイプでもフェラーリに挑みたかったんだ。このカレラを使ってね。私たちはタルガ・フローリオで勝ったが、それはフェラーリにトラブルが起きたからだった」

この車体番号911 360 0686は、ポルシェのレース部門に届けられた8台のRS 2.7のうちの1台だ。1973年2月に到着するとR7と名付けられ、RSRへと姿を変える過程で多くのモディファイが加えられた。リアサスペンションは新しいセミトレーリングアームとなり、より短く硬めになった。同じ仕様のアームはのちの量産型にも採用されたが、それがゴムブッシュでピボットするのに対して、このRSRと、ユルゲン・バルト/ゲオルク・ロースの車(1973年ル・マンで10位)では、ソリッドなボールジョイントが使われた。内側のピボットポイントは、サスペンションが圧縮した際のキャンバー変化量が増えるように位置が変更された。

フロントサスペンションは、ストラットのトップマウント部分の調整幅を増やし、スタブアクスルの位置をハブキャリアの中で上方向に移動した。これはロワアームの可動域を狭めずにライドハイトを下げるためだ。トーションバーは標準仕様だったので、補強として可変レートのチタン製ヘルパースプリングをダンパーに装着した。ほかにも、よりクイックなステアリングラックや可変式アンチロールバーを採用。ハブやブレーキは概ね917の仕様を踏襲した。

タイヤ周りに関しても同様だったが、リムは917より細くなった。とはいえ、リム幅はフロントが11インチ、リアが14インチだったから、ホイールアーチはそれまでの911で最大のものとなった。また、ボディにはRSのダックテールより幅の広いスポイラーが装着された。スポイラーはタルガ・フローリオ以降さらに拡大し、R7に見られるように、カーブしながらホイールアーチの上まで続く形状になった。その形がスコットランド女王メアリーの肖像画に描かれているような高い襟に似ていることから、このスポイラーを付けたRSRをメアリー・スチュワートの車と呼ぶようになったのだ。

ボンネットには2組の給油口が顔を出している。片方から給油すると、もう片方から空気が抜ける仕組みだ。ボンネットと車体後部はグラスファイバー製で、フロントフェンダーとドアはアルミニウム製、サイドウィンドウはアクリル製で、総重量はわずか890kgである。したがって、出力がさらに15bhp向上して330bhpになったワークスRSRが成功を収めたのも当然のことだった。タイヤが太くなった分ドラッグも増えたが、それをこのパワーアップで埋め合わせ、太いタイヤがカスタマーチームを上回るコーナリングスピードを可能とした。巨大なリアスポイラーと拡大したフロントエアダムによるダウンフォース増加も貢献したのは言うまでもない。現在、R7の出力は340bhpに上るという。この走行が最高の"ならし運転"になったはずだ。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobicurators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobicurators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Simister Photography:Jamie Lipman(studio),Martyn Goddard(Le Mans) THANKS TO Kenny Schachter - and especially his son, whom I dis

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