栄光のル・マンを再び走った「ポルシェ911RSR」に試乗してわかった量産型911との決定的な違い

1973年ポルシェ911カレラRSR R7ル・マン・カー(Photography:Jamie Lipman(studio),Martyn Goddard(Le Mans))



当時、最後の15bhpアップをもたらしたのが、見るからにパワフルなファンネルの底に位置するスライド式スロットルだった。エンジンはそれ以前からシリンダーヘッドにはツインプラグを擁し、バルブとポートも拡大されていた。カムシャフトのバルブタイミングもレース仕様で、ボッシュ製メカニカルインジェクションを備え、圧縮比は10.3:1、コネクティングロッドはチタン製だ。また、フロントのエアインテーク内に大型のオイルクーラーを備えて油温の上昇を抑えた。ギアボックスはほぼ標準仕様だったが、ギア比はレース用のもので、リミテッドスリップデフとオイルクーラー用ポンプも装備していた。

このように、R7はロードゴーイング911を根本的に変えたものではない。それは、のちの934や935の話だ。そうではなくて、もともと備わっていたものを合理的に強化して誕生したのである。あれほどの信頼性と耐久性を誇った理由のひとつがここにある。あとに続いた大半のターボバージョンも同様だった。

その後の"R7"
5レースでワークスキャリアを終えたR7は、その後どうなったのだろうか。ワークス最後のレースであるツェルトベク1000kmを7位で終えると、R7はリビルドされ、スポイラーは前後に伸びて正方形に近い形状になった。これを購入したのがアメリカのピーター・グレッグで、ワトキンスグレンでのレースに使うと、1974年2月にヘクトル・レバーク(のちにロータス79を駆り自チームでF1に参戦する)に売却した。レバークは、タバコの銘柄「ヴァイスロイ」のカラーリングで、ル・マンをはじめとするヨーロッパのレースに参戦し、様々なリアスポイラーを使用した。その後、フランスのマッシモ・バリヴァが購入すると、オリジナルの1973年ル・マン仕様に戻した。

現在のオーナーは、美術品ディーラーのケニー・シャクターだ。シャクターはR7を「自分のオフィスに置くつもりだ」と話す。

「自分で運転したら車は見えないし、駐車しておいていってもやはり目に入らない。だから私は生活を共にするんだ。デスクの目の前に置くよ。こうしたポルシェはひどく過小評価されている。こんなレース歴をもつ1970年代のフェラーリは存在しない」こう話すオーナーが寛大にも私に助手席を譲ってくれたのは、車を外から見たいという思いが強かったからかもしれない。R7がスピードに乗って走る姿は、これがしばらくの見納めとなりそうだ。だが、モナコに車両登録されているから、公道を走ることはあるかもしれないし、いつか誰かが再びこの車でル・マン・クラシックを戦う日が来るかもしれない。そうなってほしいと願わずにはいられなかった。

1973年ポルシェ911カレラRSR R7ル・マン・カー
エンジン形式:2994cc、水平対向6気筒、SOHC、
ボッシュ製メカニカルインジェクション、スライドスロットル
最高出力:340bhp/8000rpm 変速機:前進5段MT ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前):マクファーソンストラット、トーションバー、アンチロールバー
サスペンション(後):セミトレーリングアーム、トーションバー、
テレスコピック・ダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:4輪ベンチレーテッドディスク 車重:890kg
最高速度:約276km/h(ギア比による)

編集翻訳:伊東 和彦(Mobicurators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobicurators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Simister Photography:Jamie Lipman(studio),Martyn Goddard(Le Mans) THANKS TO Kenny Schachter - and especially his son, whom I dis

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