70年代らしいルックも魅力の公道走行可能な極上レースカー|BMWアルピナ3.0CSL B2S

街中を走るB2Sを見れば、そのコンパクトぶりが分かる。オフィスにはインカオレンジのB2Sに加えて、オレンジを基調としたモダンアートが飾られていた。カメラマンのおかげで、街灯がオレンジのグラフィーティアートに変わった。(Photography: Paul Harmer)



BMWの十八番となった3リッター・シックス
1960年代前半のBMWセダンは、さほどドライバーズカーと呼べるほどではなかった。1960年代後半になってから、2002や、エレガントなグランドツーリングカーのCSクーペが投入され、急速に性能を向上させてきた。そして1968年、ヴィルハイム・ホフマイスターが手掛けたE9シリーズの2800CSからBMWは激変した。1971年には自然吸気の2985cc直列6気筒エンジンを搭載したBMW3.0CS、そのインジェクションモデルである3.0CSiがBMWのパフォーマンスを引き上げた。これによりBMWはライバルを凌駕する動力性能とドライバーズカーを世に送り出し始めた。

1969年、BMWは2002ターボで成功を収めていたETCCから撤退。同年、アルピナはCSクーペによってスパ24時間で9位入賞を果たした。翌70年、アルピナはETCCにスポット参戦を開始し、ドイツ国内のレース活動も本格化させた。ザルツブルグやスパなどではフォード・カプリを抑えて勝利を収めたが、ニュルブルクリンクではタイヤでトラブルが発生した。1971年、シュニッツァーもアルピナ同様、プライベートチームとしてBMWで参戦するが、レースに本気に取り組んだフォードの前に完敗してしまった。

挽回を図るBMWは、アルピナをレース用であるBMW3.0CSLのプロジェクトリーダーに指名した。1973年には、モンツァでニキ・ラウダとブライアン・ムーアがステアリングを握ったアルピナが、フォードのジャッキー・スチュアートとジョーディ・シェクターに勝つ快挙を収め、同時にチャンピオンシップを獲得した。また、ニキ・ラウダは、ニュルンベルク6時間耐久レースでツーリングカーとしての新記録を樹立した。この頃、CSLは巨大エアロパーツを身にまとい、ほぼ"バットモービル"のような進化を遂げていた。モータースポーツシーンでのアルピナの躍進はBMWからの信頼へとつながり、この頃からアルピナ車はBMWの保証が受けられるようになった。また、1983年にはアルピナ社が、ドイツ自動車登録局から「自動車メーカー」の指定を受けた。

アルピナB2S
B2Sの、いかにも1970年代のスポーツカーらしい姿が今となっては新鮮に映る。フロントバンパーはなく、黒いエアロパーツを備えているだけで、現代の基準からすれば"ハイトが高い"タイヤはミシュラン製の205/70VR14XWYだ。シャークノーズと呼ばれたB2Sはアグレッシブな印象を与えるが、それでもベースとなっているホフマイスターのエレガントなラインもしっかり残っている。

ここで紹介するB2Sは、クラシックヒーローズというBMW専門店のバーニー・ハルセが探し出した一台だ。新車時登録から長年、スイスにあった車両で、1980年代には白にオールペイントされたそうだ。いずれのボディパネルも取り外された形跡がなく、塗り替えられた以外はフルオリジナルを保っている。また、E9シリーズとしてはめずらしく、ボディに錆がなかったという。レストアにはオリジナルの部品を用いて行われた。今となっては探すのが難しいシィール製のシート、ブリタックス製レーシングハーネスなどだ。さらに油温計とデフオイル温度計を追加し、エグゾーストは新品の調達ができなかったので、アルピナのレプリカを装着した。ボディカラーはオリジナルのインカオレンジに戻し、新車時のビビッドな印象を取り戻した。ハルセは「世界でも希に見る逸品」と太鼓判を押す。

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation: Takashi KOGA (carkingdom) Words: Robert Coucher Photography: Paul Harmer 取材協力:ケニー・シャフター(オーナー)、バーニー・ハルセ(クラシックヒーローズ:www.classicheroes.co.uk)

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