フェラーリF1レースカーの「部品」を蒐集する|AUTOMOBILIA 第6回

フェラーリF1のピストンとコンロッド(Photos: Kumataro ITAYA)



変貌の条件
浮世絵に美を見出したフランス、一介の中古部品だったピストンとコンロッドに存在価値を認めたイタリア。どちらも鍵は、目、である。目利きとは、実にうまい言いまわしだと思う。

国際語にもなっている、もったいない。そもそもの、もったいない、は実用性を規範としている。まだ使える、とか、工夫すれば使える、といった観点。

今回とりあげているピストンとコンロッドに対しても、棄てるのはもったいない、という気持ちをいだくが、この場合の、もったいない、は、実用性を基点とした、もったいない、とは少し違う。

この少し異なる、もったいない、も、大切な感覚のひとつだと思っている。壊れて使えなくなった腕時計や小さい頃に道で拾ったセミの抜け殻、などなど、身の回りには、なかなか棄てられないものが多くある。それらのほとんどは個人的な感傷や郷愁によるものだが、フェラーリのピストンともなると、使えないけれど、棄てるのはもったいない、と感じる人が増えてくる。

実用性を基盤としない、もったいない、を、素敵、という感情に昇華する装置が、フェラーリのピストンの場合は、フェラーリという名であり、2001年のF1チャンピオンシップ、という歴史であり、それらを裏打ちする、箱や証明書なのではなかろうか。

それでも、生来、郷愁や感傷といった感情の薄い人たちもいる。そのような人たちにとって、そもそも、オートモビリアなどというものは、無用の長物でしかないのかもしれない。

今回の肴
恒例により、今回も写真の説明を。

□フェラーリF1のピストンとコンロッド
F1の2001年シーズンは、全17戦中9勝したフェラーリがコンストラクターズ・チャンピオンに輝いた年。その年のフェラーリのエンジンから外されたピストンとコンロッドを、展示できるように台上に固定したものがこちら。ピストンは驚くほど薄く、コンロッドはチタン製である。




フェラーリF1のピストンヘッド

ピストンヘッドをみると、F1を戦ったエンジン相応のカーボンが付着している。F1、チャンピオンシップ、そしてフェラーリ、といった呪文のような言葉が、カーボンで汚れたピストンヘッドを燦然と輝かせるのである。もうこうなると、あばたもえくぼ、どころのはなしではない。





この手のものは茶道具同様に箱が大切。ピストンとコンロッドのような無粋なものでも、キチンとあしらいをして箱に納めれば、立派なオートモビリアになる。




きわめ

箱も重要だが、きわめ、はもっと大切である。茶道具であれば箱蓋の裏あたりに書かれているきわめ。このピストンとコンロッドはフェラーリのマーク入りの箱とフェラーリによる一枚のきわめ=由来書が付属している。これが重要なのである。




チタン製コンロッド

1980年代、ホンダF1の第二期に知人がホンダの廃棄所からひろってきたピストンとコンロッド。今みると、ピストンはいささか怪しいのだが、コンロッドは間違いなくチタン製で、知人から手渡された時は、その美しさに感激した。さすがに30年も経つと、元々の記憶があやふやになっていて、これが第二期ホンダF1のものに間違いない、と断言する勇気はない。やはり、きわめ、は大切である。




レーシングピストン

これは日産のエンジン開発者から譲られたもの。ポルシェ917か日産R382のものだと言われた気もするが、あまりに昔のことなので、どちらだったかすっかり忘れてしまった。その頃は、このようなものにあまり頓着していなかった。




コンロッド各種

これらも日産のエンジン開発部門の廃棄品だと思う。どれもチタン製らしく、とても軽い。その都度、コンロッドの軸(ロッド部)にでも由来を書きこんでおけばよかった、と悔やまれてならない。このように、きわめ、のない部品は、ただの使用済部品にすぎない。




BRMのカムカバー

これも日産の開発現場から。さすがにカムカバーともなると出自が判るのでたすかる。ただし、どのようなエンジンのものかは、おそらく聞いたはずなのだが、すっかり忘れている。




蛇足1 シューマッハの足形

今回の蛇足その一はミハエル・シューマッハの足形である。判然としない写真で大変恐縮なのだが、シューマッハの足形(レーシングシューズを履いた状態で、彼の足は、かなり小さいことが知れる)が凹で示されている。足形の下には、凸で、ミハエル・シューマッハの足形、である旨が記され、最初から写真のように額装されていた。あらためて書く必要もないかもしれないが、2001年シーズンのF1におけるフェラーリの9勝は、全てシューマッハによってもたらされたもの。それゆえ、蛇足を承知であえて掲載させていただいた次第。




蛇足2 ルマンウィナーのエンジンオイル

こちらはもう全くの蛇足。写真の液体は、2001年のちょうど10年前、1991年のルマンで優勝したマツダ・787B カーナンバー55から抜かれたエンジンオイルなのである。これも知人からいただいたもの。日本車で唯一ルマンを制した車両の優勝時のエンジンオイル、わたしはそれだけで満足なのだが、これも、きわめ、をもらっておくべきだった。このままでは、そのうち、単なるゴミとして扱われる運命が待ちうけている気がしてならない。

文、写真:板谷熊太郎 Words and Photos: Kumataro ITAYA

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