モータージャーナリストも興奮の1台│シンガー社が「Reimagined」したポルシェ911

1990 Porsche911(964)Reimagined by Singer(Photography:Mark Dixon)



0-60mph加速は3.3秒、ベース車両を遥かに凌ぐ
シンガーが搭載するエンジンは、964がベースで3種類用意されている。最高出力280bhpの3.6リッターエンジンはボッシュ・モトロニック制御を備えるスタンダード・スペック、コスワースが開発した最高出力350bhpの3.8リッターエンジン、そして4リッターエンジンだ。

試乗したタルガが搭載していたのは、最高出力390bhp、最大トルク315lb-ftの4リッターエンジン仕様だ。私たちの業界で"引っ張り"と呼ばれる先導車からの撮影時、カメラマンの指示で近づいたり離れたりする。この際、先行車に合わせようとして、エンジンやトランスミッションがぐずったり、ギクシャクすることが車によっては稀にあるのだが、シンガーでは一切ない。ドライバーの指示に対して素直に応えてくれる。

一気呵成に吹け上がるエンジンは、独特なフィーリングがある。まず4000rpmプラスまでシャープに加速していき、5000rpmからサージタンクが開きレッドゾーンになる7200rpmまでさらに力強さを増していく雰囲気だ。シンガーの0-60mph加速は3.3秒、0-100mph加速は8.0秒で、いずれも市販された964と比較すると異次元な高性能ぶりを見せつける。ただ、エンジンの素晴らしもさることながら乗り心地、ハンドリング、ステアリングフィール、ブレーキも褒めなければならない。コーナー進入時に993用ブレンボ製ブレーキ、通称"ビッグレッド"(シンガーのオプション)で減速するとフロントサスペンションに重心が集まり、リアが大人しく追従してくる。不安感は皆無。リアエンジン、リアドライブである911に共通するフィーリングではあるのだがコーナリングスピード、ステアリングの正確性、グリップ力、挙動の分かりやすさは普通の911どころではない。レーシングカーのような足回りの硬さを思い浮かべるが、シンガー専用オーリンズ製TTXダンパー、ブッシュ類、ジオメトリーの組み合わせがマジックを生み出している。

「安定性と快適性重視にもダイヤル操作で、ちょっと硬めにもセッティングできます。歴代911に相通じるハンドリングはRR独特の"アナログ"な雰囲気ですが、フロントサスペンションの動きがどのような状況かドライバーに直観的に伝わり、ABS以外はすべてがドライバーの操作に従順に応えます」そう語るのはクライアント・リレーションシップマネージャーを務めるティム・グレゴリオだ。偶然ではあるが、彼もまたミュージシャンでレーシングドライバーだった。

価格の高さも納得できる
シンガーでの作業は、964からボディパネルを取り外すことから始まる。ドア以外、964のボディパネルは使用しない。"裸"になった964のボディをレストアし、カーボンファイバー製の前後エアロパーツ、ボンネット、エンジンフード、ルーフ(電動サンルーフ装着時、タルガを除く)を取り付ける。カーボンファイバー製のボディパネルはモータースポーツ水準で炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状の「プリプレグ」を真空パックし、高い気圧を保つオーブンを使い250℃で焼きあげたものだ。オリジナルのボディパネルよりも軽量で、73カレラを思わせるデザインに仕上げられている。ダックテールを彷彿とさせるエンジンカバーは80mphになると自動的にせり上がる。なお、ポルシェのタルガにおいてトレードマークとなっているCピラー手前の"フープ"と呼ばれる部分だが、シンガーはポルシェのものでは満足できず、カーボンファイバーでフープを作りニッケルメッキを施している。

そのほかに記しておくべきは、ヘラ製特注バイキセノンヘッドランプだ。さらにワイパーは993のものを流用、給油口はボンネット上部に移設されてFIA公認の燃料タンクを採用し、バッテリーはオイルクーラー前部の低い位置に移設されていることなどが挙げられる。とにかく細かいところまでの作り込みに、シンガーの情熱が感じられるだけでなく、1台の車両に費やしている作業時間は4500時間にもおよぶ。結果として、販売価格は50万ドル強にも達している。絶対金額の高さは認めるも、作業の内容を知ればそれは納得できる。

 恥ずかしながら、シンガー911の良さを言葉で表すことに難しさを覚える。簡潔に述べるなら「完璧な車」と言い切ってしまいたい。なぜなら、この1台でレーシングドライバーやヒーロー気分に浸れて、子供のようにはしゃげるからだ。

1990 Porsche911(964)Reimagined by Singer
エンジン:3940cc、水平対向6気筒(964ベース)、
キンスラー製スロットルボディ、AEMエンジンマネージメント
最高出力:390bhp/7000rpm 最大トルク:315lb-ft/5900rpm
トランスミッション:6段(ゲトラグ製G50)、後輪駆動
ステアリング:993ラック&ピニオン
フロントサスペンション:ストラット、コイルスプリング、オーリンズ製TTXダンパー
リアサスペンション:セミトレーリングアーム、コイルスプリング、
オーリンズ製TTXダンパー

ブレーキ:ベンチレーテッド 車両重量:1300kg
性能:最高速度176mph、0-60mph加速3.3秒

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA(carkingdom) Words:David Lillywhite Photography:Mark Dixon

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