ポルシェ911から生まれた過激派「ポルシェ935クレマーK3」がル・マン優勝できた理由とは?

1979年クレマー・ポルシェ935 K3(Photography:Pawel Litwinski)



ル・マン・レジェンドのK3
爆発的、衝撃的、凄まじいなどと935のパワーデリバリーをドライバーはこう形容した。

935をモディファイして自らドライブしたボブ・ギャレットソンは、1978年のル・マンで遅い車をよけようとしてミュルザンヌ・ストレートで大クラッシュを喫し、大破した935から生還したことがある。ギャレットソンは935のドライビングをこう説明している。

「普通のコンペティションカーと同じやり方ではダメだ。普通なら、コーナー手前でレイトブレーキングをして、クリッピングポイントでまたスロットルを開けるが、それでは速く走れない。早めにブレーキングして、すぐスロットルペダルを踏み込むんだ。運がよければ、クリップにつく頃には(ターボラグが終わって)加速が始まり、ロケットみたいに立ち上がれるってわけさ」

935はまさにロケットさながらだった。レースで、それも夜間に走る姿を見たら、リフトオフでエグゾーストから炎が噴き出し、それが光の航跡となる様を決して忘れられない。

カリフォルニアに住むコレクターのブルース・マイヤーもそうだった。ブルースは生粋のエンスージアストで、彼にとって最初のポルシェは、1961年にロサンゼルスの伝説的なディーラーでレーシングドライバーでもあったジョン・フォン・ノイマンから購入した、356クーペだった。元手さえあれば、ル・マンで優勝したK3を入手するチャンスを逃すポルシェコレクターはいない。ブルースはインディアナポリスのミュージアムと交渉し、曰く「ちょっとしたトレード」で、所有していた有名なインディーカー"アガジャニアン・スペシャル"と交換にK3を手に入れたのである。

こうして、ミュージアムで30年以上の長きにわたって惰眠を貪っていたK3(シャシーナンバー:00900015)が、2012年3月にカネパ・モータースポーツの門をくぐることとなった。このK3は、1983年にミュージアムへ輸送される際に多くの重要なパーツを失っていた。インタークーラー、ウェイストゲート、チタン製ドライブシャフトのほか、ギアに至ってはひとつもない状態だった。また、ウィッティントン兄弟はアメリカに戻ってからK3をロード・アタランタの黄色に塗り替えており、その後、ル・マン優勝時のカラーリングが再現されてはいたものの、決してよいできではなかった。

カネパ社では、レストアのためK3を分解する傍ら、あちこちに連絡して必要なパーツを調達した。また、正確に再現するため、ル・マン当時の写真をかき集めて、あらゆるディテールを調べ上げた。エンジンパーツ、サイドマーカー、スポンサーのステッカー、当時のタイヤなど、ジグソーパズルのピースはひとつひとつ埋まっていった。ウィッティントンのメカニックがインディアナポリスに送る前に取り外したパーツについても、その多くを取り戻せたとブルースは確信している。レースにも出走できるよう、エンジンやトランスミッションなどのメカニカルパーツはすべてリビルドされた。こうして、手で押されてやって来たK3が、わずか92日後に、自らのパワーでカネパの施設をあとにしたのである。ル・マン・ウィナーとして100%正確に再現され、あの炎も再び噴き出せる状態で。

ブルースにとっては、K3が市販車をベースにしていることも魅力のひとつだ。その出自を証明するためにも、公道走行に必要な手続きを取り、カリフォルニアを飛ばしてみたいという。持てるパワーは800bhpに上るから、きっと大地をも揺るがす走りになるに違いない。

1979年クレマー・ポルシェ935 K3
エンジン形式:2994cc、空/水冷式水平対向6気筒、
ボッシュ製制御装置付きクーゲルフィッシャー式メカニカル燃料噴射、
KKK製ターボチャージャー×2基 最高出力:805bhp/8000rpm
最大トルク:76.5kgm/5500rpm 変速機:前進4段MT、後輪駆動
ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前):マクファーソンストラット、
ロワーウィッシュボーン、コイルスプリング
サスペンション(後):セミトレーリングアーム、コイルスプリング、
テレスコピック・ダンパー
ブレーキ:クロスドリル式ベンチレーテッド・ディスク
車重:1025kg 最高速度:338km/h

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curatorsLabo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curatorsLabo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Delwyn Mallett Photography:Pawel Litwinski 取材協力:ブルース・マイヤー、カネパ・モータースポーツ(www.canepa.com)

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