本物のレーシングカーでちょっとパブまで!? 「ポルシェ911GT1」で公道をドライブしてみる

1997年ポルシェ911 GT1(Photography Charlie Magee)



"GT1"のための条件
FIA GT選手権が産声を上げたのは、1992年に世界スポーツカー選手権が終焉を迎えた直後のことだった。"スポーツカー"による国際的な耐久レースシリーズを復興させるというのが、そもそものアイデアだった。かつてこの種のシリーズで主役を演じていたのは"スポーツプロト"だったが、ロードカーをベースとするレーシングカーも多数参戦していた。いっぽう、新たに誕生したGT選手権はロードカーを基本とするもので、1994年にBPRグローバルGTシリーズとして設立。1996年にFIAの管轄下に組み込まれた。このうち"GT1"は広範な改造が認められたクラスで、"GT2"のほうがロードカーに近い仕様だった。そしてGT1クラスに参戦するためには、25台のロードカーを製作することが義務づけられたのである。

しかし、何を以ってして「ロードカーをベースにレーシングカーを製作した」と規定できるのか。これは「ニワトリが先か、卵が先か」と同じ議論ではないのか。たしかに規則としては立派だが、この規則がもともと持っていた精神はどこにいってしまったのか。マクラーレンF1 GTRがロードカーのマクラーレンF1から造られたことは間違いない。フェラーリF40やジャガーXJ220も同様だが、911GT1が近所のポルシェ・ディーラーで売っている993や996をベースにしているといえるだろうか。

率直にいって、四半世紀前に登場した917同様、911GT1は純粋なプロトタイプカーである。しかし、マーケティング上の都合により、このマシンには911に見えるような工夫が施されている。たとえば、フロアパンの前半分は911のものを流用しているほか、ダッシュボードの形状やスイッチ類の一部も993に似ているといえなくもない。もっとも、911GT1が生まれたのは996がデビューする直前のことで、ヘッドライトのレンズ、テールライト、ドアハンドルなどは996のものが用いられた。エンジンが水冷であることも996と共通だが、これはミドに搭載されたドライブトレーンがグループCの962を手本にしているからに他ならない。フロントのダブルウィッシュボーン・サスペンションも962を見習ったもので、スプリング/ダンパー・ユニットは993のストラットタワー頂点に取り付けられている。

パブに寄ってから、街をひとまわり
私が最初に911GT1と出会ったのは、まるで手術室のように清潔なランザンテのワークショップでのことだった。レストアラーとして名高い彼らは、ジェントルマンドライバーのためにレーシングカーのメンテナンスも請け負っている。ボディカラーはお馴染みのシルバーだが、各所に貼り付けられたスポンサーロゴは、現役当時と違って黒一色とされている。レーシングGT1をロードカーとして用いるなら、これはなかなかうまいアイデアだ。

そのディテールを見れば、これがロードカーではなく純然たるレーシングカーであることは明らかだ。フロントフェンダーの上部にはタイヤからの熱気を抜くルーバーが取り付けられているほか、後輪手前の低い位置にはNACAダクトが見える。レーシングバージョンのリアウィングは大きいうえに四角張っており、ヘッドライト内部のパーツも部分的に欠けている。サイドマーカーランプがなく、ホイールセンターのフィニッシャーがないのもレーシングカーの特徴だ。

正直なところ、これが911であると信じ込むのは難しい。それでもボディシェイプにはなんとなく911の面影が見受けられ、ウィンドウスクリーン、それにサイドウィンドウの形状にも"911らしさ"を認めることはできる。

ポルシェ・ファミリーに共通なフラット6のエグゾーストサウンドも、そうした「強引な思い込み」をわずかながら手助けしてくれる。エンジンはすでにウォームアップされていて、あとはオーナーであるクリス・ウィルソンのドライブでパブに向かうのを待つばかりだった。もちろん、このGT1がそんな目的のために造られたわけでないのは承知のうえなのだが…。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words John Simister Photography Charlie Magee 取材協力:ランザンテ(www.lanzante.co.uk.)

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