本物のレーシングカーでちょっとパブまで!? 「ポルシェ911GT1」で公道をドライブしてみる

1997年ポルシェ911 GT1(Photography Charlie Magee)



どの道を走ったかも思い出せないくらい、あっという間に私たちは目指すパブ、ディアーズ・ハットの駐車場にたどり着いた。スマートフォンを手にしたたくさんの人々が、私たちが乗ってきた車を取り囲んでいる。私たちはそこでアルコール抜きのランチを楽しんだ。クリスは注意深く車を停め、慎重にルート選びを行った。なにしろ、住宅地などに設けられたスピードバンプを乗り越せばフロントノーズに致命的なダメージを与えかねないし、回転半径はバスよりも大きいのだ。

ランチが終わると、2001年のデイトナ24時間を戦ったマシン(予選は12位で通過したが、決勝はギアボックス交換を行ったため41位でフィニッシュ)は私に託された。タイヤを除けばハードウェアはほとんど当時のまま。エンジンのマッピングはもっとも大人しい設定にしてあるものの、それでも最高出力は軽く600bhpを越える。この日は晴れていたから、レース用のスリックタイヤを装着すればGT1本来のパフォーマンスを引き出せたかもしれないが、試乗したGT1はミシュランのパイロットスポーツを履いていた。もとはといえばマクラーレンF1用だが、911GT1も同じサイズが装着できるのだ。

私はレース仕様の操作系で仕立てられたカーボンコンポジットのコクピットに乗り込み、6点式シートベルトで身体を固定した。キーをひねり、燃圧が充分に高まって燃料ポンプの音が止むまでそのままの状態で待つ。すると薄暗い液晶パネルに何かが映し出された。いったい、直射日光の下でそこに表示されたものが判読できるのだろうか。

もう1段階キーをひねるとエンジンが息を吹き返した。迫力あるサウンドが私の鼓膜を激しく揺さぶる。

「ギアボックスは思い切って操作してくれ。さもないとガリガリと音を立ててしまうから」そのサウンドに負けじとクリスが叫んだ。申し訳程度にシンクロメッシュが付いているとはいえ、このギアボックスはレース用のドグクラッチタイプで、シフトはHパターン。レバーの前方にはシフトリンケージがむき出しになっている。

クラッチは重いが、意外にもつながり方はスムーズで扱いやすい。発進するとあちこちから様々なノイズが聞こえたが、A3環状線につながる道路をなんとか走り出すことができた。

2速と3速へは早めにシフトアップ。ここで感触を確かめるべく、タコメーターが2500rpmを示しているあたりでスロットルをそれまでより少しだけ深く踏み込んでみた。すると、ふたつの大きなターボチャージャーはまったく躊躇することなく過給を開始、GT1を恐るべき勢いで加速させた。レースカーにもかかわらず驚くべき低回転域のトルクだ。同じことを5000rpmで試したら、いったいなにが起きるだろうか。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words John Simister Photography Charlie Magee 取材協力:ランザンテ(www.lanzante.co.uk.)

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