本物のレーシングカーでちょっとパブまで!? 「ポルシェ911GT1」で公道をドライブしてみる

1997年ポルシェ911 GT1(Photography Charlie Magee)



ランナバウトに進入する際、私は丁寧にスロットルをブリッピングして回転をあわせ、シフトダウンを行おうとした。しかし、これは的外れだったらしい。ギアがきれいに噛み合わず、いやなノイズをたてた。そう、「シフトは素早く、しっかりと」だった。レーシングカーに中途半端な操作は似合わない。それでも私がステアリングを握るGT1はどうにかして目指す通りにたどり着いた。

たしかにこの道路は広いが、レーシングコースではない。しかし、GT1にそんなことは関係ない。クリスはなにかを叫んでいるようだったが、なにを言っているかはさっぱりわからない。急上昇するレブカウンターは5000rpmを表示。速度計がどこを示しているかは読み取れなかったが、クリスの気配から右足をさらに踏み込むことにした。私は限られた視界のなかにパトカーの青いフラッシング・ライトが現れないことを祈り続けた。

8500rpmの少し手前でシフトアップすると、ウェイストゲートのシューッというため息とともに、生ガスが送り込まれたエグゾーストパイプからパッパッパッーンというノイズが高らかに響き渡った。もう1度、スロットルペダルを踏み込む。このとき、私は自分の運をあっという間に使い果たそうとしているような不安に駆られた。

助手席のクリスは大声で笑っている。少なくとも、私にはそう思えた。インターチェンジでも車は加速し続けた。もし、この道がデイトナのバンクへとつながっていたのなら、私は強大なダウンフォースを実感していただろう。しかし、A3を走る私がレーシングカーの空力について語ることはできない。いっぽう、GT1のハンドリングには心を奪われた。パワーステアリングだがアシストが過剰ということもなく、タイヤの感触がしっかりと伝わってくる。リップフックを目指すルートには道幅の広いコーナーとストレートが続いていた。そこからかつてのA3(現在はB2070と呼ばれているが、一部は片側2車線となっている)に入り、思わず眠くなるようなリッスの街に入る。もっとも、今日ばかりは間違っても眠気に襲われることはないだろう。

もちろんこの車は公道向きではない。一般道を走らせて痛快なことは間違いないが、それが的外れな行為であることも事実だ。どこで走らせてもそのポテンシャルを知ることはできないし、ましてや限界を探るなど不可能以外の何ものでもない。もっとも、それは最新のスーパースポーツカーでも同じことだろう。それでもオーナーたちは車の実力を誰かにわかって欲しいと願う。だが、クリスは違う。彼はこのハチャメチャなドライブをただ楽しみたいだけなのだ。

GT1の最初のオーナーはカナダで活動するレーシングドライバーのクラウス・バイツェックだった。このマシンは、最初からエボ仕様で仕立てられた唯一の車で、初期のGT1はいずれも生産後にエボ仕様にコンバートされたものである。カナダの選手権に挑んだバイツェックは、このGT1とともに1999年から3連覇を達成。2002年にもタイトルを勝ち取ったが、そのときは1レースだけ別のGT1を走らせている。そして2003年の最終戦にもこのマシンで挑んだ。シャシーナンバー"GT1.117"は、いまもこのレースを走り終えた姿をそのまま保っている。

3年前にこのマシンを手に入れたクリスは、ランザンテのもとで完全なレストアを実施すると、2015年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードに参加した。現在のスペックはサーキット走行より公道走行に適したもので、オリジナルのカーボンセラミック・ブレーキはスチール製に置き換えられた(デイトナを戦ったときもそうだった)ほか、ラジエターのサーモスタットを低温タイプに変更、993用のパーキングブレーキを取り付けるとともに、保安基準を満たすのに必要なウィンカーやホーンなどための電気配線が追加されている。

耐久レースを戦うのに必須の燃料残量警告灯も付いていて、これがまさに私のドライブ中に点灯した。「今朝、満タンにしてきたばかりなんだ。でも、まだ大丈夫なはずだ」とクリスはいう。

ところが、リッスからランザンテのところに向かう途中で、GT1はガス欠で止まってしまったらしい。その後も警告灯はついていたのだろうか。

「もちろんついていたよ。なにしろポルシェ製だからね。すべて完璧に機能するんだ」

1997年ポルシェ911 GT1
エンジン形式:3164cc、水冷水平対向6気筒、ドライサンプ、DOHC 24バルブ、
TAG 3.8エンジン・マネージメント、KKK K27ターボチャージャー×2基
最高出力:640bhp/7200rpm 最大トルク:479lb-ft/5500rpm
トランスミッション:5段MT、後輪駆動
ステアリング:ラック・ピニオン、パワーアシスト付き

サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング/
ダンパー、アンチロールバー

サスペンション(後):ダブルウィッシュボーン、スプリング(水平配置)/
ダンパー(プッシュロッド+ベルクランク作動)、アンチロールバー
ブレーキ:グルーブ付きベンチレーテッド・ディスク 車重:約1000kg
性能:最高速度200mph(約320km/h)以上、0-60mph(0-約96km/h)3.5秒
(ハイギアードの場合。試乗車はローギアを装備)

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words John Simister Photography Charlie Magee 取材協力:ランザンテ(www.lanzante.co.uk.)

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