ジェームス・ハントの家を訪れて│彼が所有していたメルセデスの今

Photography: James Lipman

"ジェームス、これはだいぶ大掛かりなことになるよ。かなりボロボロになっているからね"と、私は紅茶を飲みながらジェームスに伝えた。私がティータイムを共にしているジェームスとは、1976年のF1チャンピオンであるジェームス・ハントだ。彼のメルセデス 450SEL 6.9をレストアしたいという相談をされたのだ。

サウスフィールド・ウィンブルドンにある彼が住んでいる豪邸の裏庭で、この大きな古ぼけた車についてこそこそしているのは、父親の車でいたずらをしようとしている少年のような気持ちになった。スキャンダルが発覚したり投資に失敗したりして、悲しみに溺れているかと思ったら、決してそんなことはなかったのだ。





1990年代初期、私は"Auto Express"のエグゼクティブディレクターを務めていた。会社と私の相性は全く良くなかったのだが、数年はお茶を濁しながら共にしていた。それは、F1レーサーに寄稿してもらう企画が決まった時で、私はジェームス・ハントに連絡してみたのだ。若い頃は自由奔放な振る舞いをするレーサーとして知られていたジェームスは、晩年では大人しくなったと良い評判を得ていた。



私のような職業に起きる悲劇とは、ヒーローだと思っていた人たちに会ってみると、ほとんどの確率で嫌な人間である事実を知ってしまうことだ。しかし、ハントは違った。"いいよ。うちに来て、色々話そう"と彼は言った。私はケーキを持っていったら、彼は紅茶を用意してくれて、豪邸のテラスでお茶をした。キッチンでは彼が愛していたセキセイインコがさえずり、意地の悪いオウムが足元を飛んでいる。私はハントの家を行き来する間で、そのオウムには近付かないほうが良いということを学んだ。ハントの運転でパブへと向かうA35バンの車内に隠れて、私の指に噛みつける時を探っていたのだ。

直接話したり、レースの後には電話で話しを聞いたりしながら、500ワードのコラムをゴーストライトした。彼はとても紳士的で、電話を無視されたことは一度も無かったし、ヨーロピアンGPの時はサウスフィールドで会ってくれた。私の息子ファーガスがまだ赤ん坊であった頃、会話を録音しているデバイスを手に取り遊ぼうとよくしていた。"ファーガス、それを返してくれるかい"と私が言うと、"まだ話しは終わっていないんだ"とハントが続けて言うのだ。



メルセデス450SELは1975年に発表されたモデルだが、ハントが所有していたのは1979年9月に製造されたシャシーナンバー7074の1台で、色は純正のダークブラウンだ。ハントは、この、6.9リッター V8エンジンを積んだ大きなメルセデスを充分に楽しんでいたようであった。この車の支払いはハントにとって重荷になっていたようだ。現在のオーナーによると、ハントは車の保険を1,2か月ほどしかかけていなかったという。

Words: Andrew English 訳:オクタン日本版編集部

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