コンクール常勝の「タルボ・ラーゴT150C」オーナーに学ぶ「美しい車」の本当の価値

1937年 タルボ・ラーゴ T150C SS フィゴニ・エ・ファラシ(Studio Photography:Michael Furman)



20年ぶりの化粧直し
ピーターは、20年間にわたってコンクール・デレガンスに通い詰め、その間ラリーも走ったT150の労をねぎらい、化粧直しの作業をバーモント州にあるサージェント・メタルワークスに依頼した。その様子をスコット・サージェントが語っている。

「車のドアガラスには、おそらく1950年代か60年代にオリジナルでない三角窓が加えられていたので、取り外すことにしました。フロントピラーにいくつか疲労亀裂が入り、フードはヨーロッパでのラリーで使われた時に加えられたフックが外されたままになっていたため、ここが傷み始めていました。そこで、ほどよく使い込まれた雰囲気を壊さないよう、クロームメッキや内装、塗装の修理も行いました。ピーターは塗装の色を気に入っていて変えたくなかったため、特別に色を配合したのです。計器やキャブレターなど細々とした修理もしましたが、大がかりな修理はありませんでした。機構面はボブ・モーザーが管理していたため、よいコンディションでした」

タルボ・ラーゴにはウィルソン製プレセレクター・トランスミッションが備えられている。小さなレバーで次に使用するギアをあらかじめ選択すると、その後、ペダルを踏むだけで自動的にギアがシフトされる。コーナーにアプローチする際、両手をステアリングから離す必要がないため、曲がりくねった道路を運転するときに便利で、ピーターはこれがT150の走行をさらに楽しいものにしていると考えている。

「ウィルソン製トランスミッションを搭載したタルボT26でレースに参戦することもあります。コーナーに入るときギアシフトを考える必要がなく、ダブルクラッチをしたりギアレバーと格闘したりしなくてはならないドライバーたちをとらえることができるのです」

真のコンクール・コンディションとは
ピーターのようにドライビングを楽しむ人々は、オリジナリティ、ヒストリー、コンクールでの受賞歴など、フィジカルな完成度において相反する要求のバランスをどのように取ればよいのだろうか。第二次大戦前の解釈に倣い、オリジナルのコンクールコンセプトに戻るべきなのだろうか。私はどうしても質問しておかなければと思った。

「それはとてもいい質問です。私はヒストリー、希少性、そしてデザイン性を重視したヨーロッパにおけるコンクール・デレガンスの観点、たとえば、高級なオート・クチュールドレス、そしてそのドレスに合った帽子とバッグを身に着け、子犬を連れているようなエレガントなスタイルが正しいと長い間思い続けていました。またアメリカでは、過剰なレストアを施し、ネジの頭が綺麗に並んでいるかとか、下にわずかでもオイル漏れがないかといったことにこだわる傾向にありました。車は必ずオイルがもれるものなんですけどね。そのため車は出荷されたときよりも良い状態にレストアされていたのです」

「公平に見て、ペブルビーチのようにメジャーなコンクールはこういったことを把握していて、オリジナリティとヒストリーをより重要視しています。車を走らせ、その結果、跳ね石によってちょっとしたキズがついたとしても、それは実際に使っていることの証であり、悪いことではありません。この疑問については、私の中ではすでに解決しています。車は芸術作品かもしれませんが、壁に掛けたり、特別な照明を当てたりしてガレージに保管しておくための物体ではないのです。車は運転して楽しみ、路上で人々に見てもらうべきです」

「車を走らせることで生じた使用感に問題はないというのが、私の考えです。もちろん賞を得ることはとても嬉しいことです。ただ、トロフィーをほしいがためにクラシックカーの世界にいるのならば、それは間違った情熱だと言いたいのです」

そう言うとピーターは彼の愛するタルボ・ラーゴに乗り込み、うなりを上げて走り去っていった。


1937年 タルボ・ラーゴ T150C SS フィゴニ・エ・ファラシ
エンジン形式:3996cc、直列6気筒、OHV、
ゼニス・ストロンバーグ・キャブレター×3基

最高出力:140bhp/4000rpm
変速機:前進4段、ウィルソン製プレセレクター、後輪駆動

ステアリング:ウォーム&ナット
サスペンション前:独立式、アッパーウィッシュボーン、
ロワー横置きリーフ・スプリング

サスペンション後:リジッド式、半楕円リーフ・スプリング
ブレーキ:ドラム(ケーブル式)、サーボアシスト
車重:1500kg 最高速度:185km/h

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE(CK Transcreations Ltd.) Words:Mark Dixon Studio Photography:Michael Furman

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