コレクターだからこそ価値がわかる|フェラーリ250 カリフォルニア・スパイダーが特別な存在である理由

1961年式フェラーリ 250GT SWB(Photography:James Lipman)



"2277GT"
この車は現在、お決まりともいえるロッソに塗装されている(ポールが購入した当時のまま)が、当初はノッチョーラ(ヘーゼルナッツ)ブラウンに塗装されており、インテリアはタバコカラーだった。11番目に生産されたこのSWBは、ガレージ・フランコルシャンによって1961年のブリュッセル・モーターショーに出展され、その後まもなく、ミラノのパブリッシャー、ディーノ・ファブリに売却された。1968年にはアメリカに渡り、赤に再塗装され、ブラックのインテリアに張り替えられた状態で、2006年初めにポール・マイケルズが買い取るまで、さまざまなアメリカ人オーナーの手を渡った。

「当時、私は美しいスチールボディの250 GT SWBを持っていました。その頃、私と妻はイタリアのロードラリーに参加し、そこで3台のカリフォルニア・スパイダーに出会ったのです」昔を思い出しながら、ポールはそう語りだした。

「その1台の後ろにつけたとき、妻が『なぜ私たちはフィックスド・ヘッドに乗っているのかしら』と言ったのです。私は持っていたGTを売却し、少しばかりの資金を足してカリフォルニアを手に入れました。私にとってこれはパーフェクトなフェラーリです」

ならばなぜ、ポールはこの車を手放そうとしているのか。彼の答えは簡潔だ。「私が好きなイベントで走らせ、ロンドンに駐車しておくには、車の価値が上がり過ぎました。寂しいことですが、これが現実です」

カリフォルニア・スパイダーでロンドンを走る
確かに、ロンドンはカリフォルニア・スパイダーを走らせるには理想的な場所ではないかもしれない。しかし夜の街でオープンカーを走らせることは格別であり、それがフェラーリでもフィアットでも、他にはない爽快感が五感を刺激する。

すべてのクラシックカー同様、カリフォルニアも一見コンパクトで、周りを取り囲む他の車両の大部分と比較すると華奢な印象を受ける。手を伸ばせば、端から端まですべてに指先が届くような感覚が、24時間絶え間なくカオスなロンドンの路上でさえ、自信を起こさせる。先程のフォトセッションのときと同じように、すぐさまエンジンに火が付き、数秒後にはテムズ川沿いの撮影場所を走り去り、パトニーブリッジのブラックキャブやダブルデッカーと合流する。

車がトラウトの群れの中にいる小魚のように、生き生きとそしてしなやかに車と車の間をすり抜けていく間、私はこの車にその優美な曲線を守るバンパーやオーバーライダーが装備されていないことを思い出さないようにしていた。ポールがこの車を購入するずっと前に取り外されていたというバンパーについて、「この方が断然いいと思っています。バンパーが付いた250ベルリネッタなど考えられますか」とポールは語る。剛性の低さはさておき、スパイダーは完璧なシティカーだ。快適なステアリングフィールと応答性でスムーズなハンドリング特性。4段ギアボックスのギアシフトは正確で、その機械的な動きも申し分ない。4輪ディスクブレーキを備えているため、ブレーキ性能について不安を感じることもなく、小さくバスタブのような車内では、ショーウィンドウやトンネルの壁から跳ね返るフェラーリV12の臨場感あふれるサラウンドサウンドに浸ることができる。

レースにも参加できる高いパワーを備えたSWBカリフォルニア・スパイダーだが、そのトップスピードは、フェラーリの資料によれば、終減速比とタイヤサイズの組み合わせによって、117〜166mph(188〜267km/h)に達したという。だが、この車にはスピードだけではなく、スタイリングはもちろん、数多くの魅力が秘められている。

ロンドンに住んでいようが、LAやリトル・プランプトン(イギリス、ランカシャー)に住んでいようが、カリフォルニア・スパイダーは決して期待を裏切らない。1986年、フェリス・ビューラーは、ティーンエイジャーだけが持つことのできるその無鉄砲さでこう言っている。「最高さ。お金があるなら、ひとつ買ってみるべきだよ」と。これには同感だ。

SWBカリフォルニア・スパイダーは、どの角度から見てもただ美しい。長い歴史のなか、その大部分をバンパーがない状態で走り続けてきたが、ポールにとってこれが魅力である。

1961年式フェラーリ 250GT SWB
カリフォルニア・スパイダーエンジン:2953cc、軽合金製V型12気筒、
OHC、ウェバー36DCLキャブレター×3基
最高出力:280bhp/7000rpm 変速機:4段MT、後輪駆動
ステアリング:ウォーム&セクター
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、油圧ダンパー
サスペンション(後):リジッドアクスル、半楕円リーフスプリング、油圧ダンパー
ブレーキ:ディスク 車重:1200kg
最高速度:通常125mph(約201km/h)、0-100km/h:6秒

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Mark Dixon Photography:James Lipman 取材協力:ポール・マイケルズ、キャメロン・ミッチェル、フィリップ・キリアコウ、ベン・ホ

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