名車が厳寒のモンテに集う│伝説のラリーカーアルピーヌA110が復活

Photography: Bernard Canonne



ラリーを終えた翌日、チュリニ峠のカフェに戻ると、A110の小気味よい排気音を轟かせながらルノー・チームが現れた。彼らが戻ってきたのは、私を含め何人かのジャーナリストを伝説的ドライバーがA110助手席に乗せ、ラリーコースを体験するためだった。私は72位の成績を収めたアラン・セルパジの隣に乗ることになった。マシーンはカーナンバー21 の1300で、コ・ドライバーはジャン・ピエール・プレボストだった。A110は小さく低いものの、車内は明るく広い。だが、シートの座り心地は決してよいとは言えず、今ごろムッシュ・プレボストは腰痛になっているに違いない。



セルパジがA110のエンジンをかけると、2基のツインチョーク・ウェバーの吸気音と短い排気システムから鋭い音が響き渡った。レヴカウンターが不調で動かなくなっているため、アランは耳も使ってエンジンをコントロールしながら、凍った峠を下り始めた。連続するカーブでは、スウィングアクスルとリアエンジンの組み合わせが非常に効果的に働いていることがわかる。

「機動性があり敏捷だ」とセルパジはいう。彼との会話は主にフランス語だがときおり英語が混じる。「バランスが素晴らしく、やりたいことが楽にできる」と。もちろん何をすべきか分かっていればの話だ。

セルパジのドライビングは非常にスムーズで、回転を合わせたギアシフトも完璧だ。クルマはずっとテールスライドしているが、まったく方向性が乱されることはなく、路面状況を的確に掴んだドライバーがそれに直感的に対応するのが感じられる。曲がる過程で少しスライドするのは当たり前。もっと滑ってもセルパジは笑顔になるだけだ。A110がドライバーと完璧に同調して動く。

こうして名手の隣で体験すると、私はこれまで以上にA110への想いが高まっていった。だが、既に10年ほど前には価格が急騰してしまい、簡単に手が届くわけではなくなっている。それをなおさら悔やんだのが、カルロス・タバレスCOOが運転するメガーヌRSでチュリニ峠へ戻る際だ。タバレスのドライビングは巧みで、盛大な排気音を山間に響かせてルノーを駆るアンドリューを追走するものの、アンドリューはどんどん引き離していく。メガーヌRSブレーキは下りでヒートし、パワーのオン・オフでリアタイヤのキャンバーが変化する。

「これはA110から乗り換えるとトラックのようだ」と自社のホットハッチを評してタバレスCOOは苦笑していた。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: John Simister 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事