フェラーリ栄光のエンブレムが誕生するまで|伊空軍のエースパイロットとエンツォとの歴史

栄光のエンブレム(TONY WILSON-BLIGH/Alamy Stock Photo)



マラネロで開花
世界は再び大戦に突入し、ファシスト党率いるイタリアは、今度はドイツと同盟を組んで参戦する。フェラーリのファクトリーでは、航空機用の小型4気筒エンジンや、ガソリンを動力にした研削盤などを製造していた。1943年、エンツォはモデナから17kmのところにある小村、マラネロに製造拠点を移す。こうしてマラネロの名が、フェラーリの本拠地として世界中に知られるようになるのだ。

フェラーリの名を冠し、長方形のバッジをボンネットに付けた最初の車が製造されたのは1946年のことで、翌1947年にピアチェンツァ・サーキットでデビューした。小さなずんぐりしたボディに1500ccのV12エンジンを搭載したフェラーリ125(1気筒当たり125cc)は、全30周のレースであと3周というところまでリードしていたが、燃料ポンプの故障でリタイアした。だが、2週間後のローマグランプリでは見事に優勝。これが伝説誕生の瞬間だった。

それから70年間、フェラーリは一度も途切れることなくモータースポーツに参加し続け、F1でコンストラクターズタイトルを16回、ドライバーズタイトルを15回獲得する。また、魅力的なロードカーを次々と世に送り出して、世界で最も有名な憧れのブランドに成長し、跳ね馬も、誰もが知るロゴとなって久しい。

シールド型のエンブレムは、1930年代以降、しばらく使われていなかったが、増え続けるカスタマーカーとワークスカーを区別するため、1952年に復活する。また、1959年からは、跳ね馬単体のロゴがラジエターグリルやエンジンカバーを飾るようになり、メタルプレートに刻まれたものから立体的なレリーフ風のものまで、様々なバージョンが生まれた。実は、1929年以来、フェラーリの跳ね馬は何度となく手を加えられている。だが、2002年の"修正"にはほとんどの人が気づかないだろう。よく見ると、性転換手術を受けて雄馬から雌馬に変わっているのだ。

1970年代から80年代にかけて、高級品市場を取り巻く状況が根本的に変わり始めた。富をひけらかすことは悪徳ではなく、堂々と誇示するほうが好ましいと考えられるようになったのだ。消費者は自分が購入するブランドを個性の証と捉えるようになり、それとともに、ブランドを示すラベルも、内側ではなく外側に付くようになった。

若い世代は、高級品を身に着けることで自分の成功を世に示したいと考えるようになった。それを叶えるために、ラルフローレンのような高級ファッションブランドも、あえて服の目立つ位置にロゴを配置して、一目でブランドが分かるようにした(蛇足ながら、ラルフローレンのロゴにも馬が使われている)。また、ポルシェの腕時計やサングラス、アクセサリーが登場し、自動車ブランドが持つ高級感や人気を利用して新たな市場を開拓する試みも始まった。しかし、フェラーリは違った。長年の間、跳ね馬のバッジを手に入れるには、高額な特注の自動車を購入するか、総帥のお気に入りになって、跳ね馬が刻印された腕時計を贈呈される以外に方法はなかったのである。

だが、今は変わり、跳ね馬をあしらった公式グッズを誰でも買うことができる。衣類だけ見ても、Tシャツから1000ポンド以上のレザージャケットまであり、ほかにも25ポンドの鉛筆6本セットや、300ポンドを超えるカーボンファイバー製の小物用トレーなど、圧倒されるほどの品揃えだ。自分の子どもに跳ね馬の野球帽をかぶせることもできるし、"リミテッドエディション"の腕時計にも様々なタイプがある。

ただ、この状況をエンツォが喜ぶとは思えない。簡素で地味な服装を好み、車のためだけに人生を捧げた人物だ。自社製品の格を保つために、「市場が望むより1台少なく製造する」のが信条だった。フェラーリがフィアットの傘下に入った少しあとに、高名な自動車ジャーナリストのグリフィス・ボージュソンがエンツォのオフィスに招かれた。ボージソンによれば、部屋は広々としていたが、シンプルなデスクと3脚のイスがあるだけで、がらんとしていたという。壁にも飾りはほとんどなく、あるのは妻の大きな写真と、疾走する真っ赤なレーシングカーの絵、そして、跳ね馬を描いたスパッド戦闘機の横に立つフランチェスコ・バラッカの姿をとらえた大きなカラープリントだけだった。エンツォの人生において重要なものは、すべてそこに凝縮されていたのだ。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Delwyn Mallett

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