ヨーロッパ車の「ちょい悪」レストア!?|ランチア・アウレリアの「アウトロー」の全貌

1957年ランチアアウレリア B20 GTアウトロー(Photography:Paul Harmer)



ドナー車を見つけるのは難しいことではなかった。アウレリアならソーンリーカラム社では常に数台のレストレーションが進行中であり、数台のストックもある。しかしオールドカーの専門家たちの逆鱗に触れないためにも、シリーズ最後期のシリーズ6をベースにすることで話がまとまった。初期のシリーズは貴重で、価格も上がっているはずなので、手を出さないに越したことはないのだ。サイモンはこうも言う。「実はシリーズ5が最も不人気でドナーには最適だったのですが、私たちのところにはなかったのです」

そこで、同社がストックしていた1957年のB20GTシリーズ6に白羽の矢が立った。それは、"なんとかアウレリアと認識できる程度"のコンディションだったが、合計1400時間におよぶ作業の末、すべてのボディパネルはシートメタルから新規に作り直された。4枚のフェンダーのオリジナルとは微妙に異なるなだらかな膨らみは手で叩き出された。リアクォーターも新たに製作した。ドアフレームは別注で作製し、レインガーターはなくメッキトリムは最小限に留められた。ホットロッドを思わせる削ぎ落とされたノーズとデッキ。加えてフロントのウィンカーと開口部のサラウンドは取り払われてなくなっている。給油口でさえ完成させるまでに2日を要した。結局このアウレリアについては、「プレスされたフロアパンだけがあったようなものさ。それ以外は結局すべて私たちが造った」と工場を監督するウエイン・カラムは語る。

実作業は、ソーンリーカラム社に3年間勤務する板金工のマット・タップマンが担当した。そしてすべての光物はクロームよりはるかに上品な光を放つニッケルメッキで仕上げられた。足は、特注のジャガーDタイプ風ダンロップ・アルミホイールにエイヴォンのZZSを履く。レーシングドライバー好みでもあり、この車が走るために仕立てられたことを強調している。フロントのウィンドスクリーンは特注だが、リアはオリジナルをそのまま再利用した。ガラスのエッジ付近にはランチアの工場で造られた頃のエクボがいまだに残っている。ドアハンドルは短く切り詰められた。フェラーリのコンペティション風のボンネットキャッチと、アウレリアGTシリーズ2まで使われていた小型のテールライトを備えるが、理由は「単純にかっこうがいいから」とはサイモンだ。

クリエイション
「この仕事には、CAD/CAMは介在しなかった」とウエインは語る。それはすべて茶紙の上に実寸で描き込まれた。

「2014年に、完成したベアメタルボディを見た時の印象は、『これは塗装をするべきではない』というほどの出来映えだった。クリアコートを吹いて、いっそ私のものにして、アートとして飾っておきたいと真剣に思った。さらには、黒というボディカラーは面倒以外の何物でもない。わずかな塗装ムラやヒビがたちどころに顕著になり、ボディワークを実際よりずっと悪く見せるからだ。インテリアはもう少し実用的、すなわちホットロッド寄りでかつミニマリスト。具体的にはキルトされたコノリーレザー、ポルシェスピードスターのシート、バイヤス調整付きのカリフォルニアのティルトンのペダル。これらのパーツは組み合わせをよく考えないと失敗するが、今回については完全にトーンが同調できたと思っている。ステアリングホイールはもちろんナルディ。イェーガーのメーター類はスタンダードのままだが、インナーベゼルは黒く塗装されている。ヘッドライニングはアルカンターラだ」

すべてのトリムはゲーリー・ライトが担当した。「今回使ったアニリン染めの全天候仕様のコノリーレザーはすぐに馴染み、使いこんだ雰囲気が出る」

シート・アジャストレバーのノブはアルミ製に替えられた。そしてヴィンテージカーのレストアなどで、錆び崩れたルーカス製のリプレースとしてよく使われる、1943年以来の英国の老舗、クレイトン製のクラシックタイプ・ヒーターが車内にヴィンテージな雰囲気を加えている。細めのロールケージはボディやダッシュボードと同じくグロスブラックに塗られ室内に巧妙に巡らされているので最初はその存在に気付かないかもしれない。

エンジンは、アウレリア用V6ユニットのボアを拡大してストロークを縮めたシリーズ3以降に搭載される2.5リッターで、トリプル・ツインチョーク・ウェバー・キャブレターを備えたフラミニア仕様だ。ぎりぎりまで削られポート加工されたシリンダーヘッドと、若干高められた圧縮比とカムプロフィールによって170bhp以上を発生する。プラグコードの導管はエンジンベイと同色の結晶塗装。赤い結晶塗装のカムカバーは洒落ている。アルミ製ファネル6本がコンペティションカーの雰囲気を際立たせる。

また、1955年からアウレリアに採用され、その後にフラミニアにも踏襲された分割型トランスアクスルケースを備えたが、内部には油圧式のセンタースラストベアリングを用いた。これは目にすることができない唯一の現代的なモディファイだ。さらに、車体下部には、トランスアクスルのブロンズ製ドレンプラグのような、覗けば楽しい小さな細工も施されている。

パワーアップとともに、ヴィンテージ・ベントレーなどで目にする、最新のティルトンのメカニズムで作動するディスクブレーキを全輪に装備。その走りはまさにアウレリアそのものか、それ以上だ。ちょうどストックの3.2カレラに対する911クラブスポーツのようなもといえようか。

安定したプラットフォーム。パワーというよりシャシーバランスが造り出す、流れるような挙動。アウレリアのすべての歓迎すべき特徴がそこにある。軌道のポイント切り替えを彷彿するロングストロークのギアチェンジと、ロール状態で場合によっては重くなるステアリングは、却って他の長所を際立たせている。パワーユニットはドライバーに更に回すことを要求し、その咆哮とともに力強く車体を引っ張る。ブレーキングはシャープで極めて革新的。ステアリングは、スライディングピラー式フロントサスペンションのおかげでコーナーでは負荷が増すが、ギアチェンジは、トランスアクスル車特有のスイートさをみせる。

そして宝石の輝きのようなインストルメンツの眺めは.スーパークール.で、ドライバーズシートに座る者をダイレクトにカレラ・パンアメリカーナへと誘う。これにチェーンソーのような唸りをあげさせるとそれはまるでフェラーリ・ディーノのようだが、これは目的地に早く到達するために頑張る必要のないアウレリアだ。ランチア社はなぜもっと大きなエンジンを載せなかったのかと訝しがってしまう。

編集翻訳:小石原耕作 Transcreation:Kosaku KOISHIHARA Words:Paul Hardiman Photography:Paul Harmer

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