アウトデルタの魔法│アルファロメオとモータースポーツの歴史

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そしてついに、ずっと気になっていたに乗るチャンスが巡ってきた。そのエンジンは怒りの雄叫びを上げている。心配になるぐらい古びたエイヴォンのスリックタイヤを、さらに脅すような恐ろしい雰囲気を漂わせていた。

すっぽりとしたレーシングシートに滑り込む。
ジュニア・コルサは猛烈にスタートしたが、ローギアードのせいで息付く間もないシフトチェンジが必要になる。ブレーキはストロークが長くソフトだが、それを心配しているひまはない。アクセルを踏み込めばエンジンノイズはほとんど常軌を逸しているほどに轟きはじめ、強烈なパワーをアスファルトにこすりつけているように感じる。たった1290ccのエンジンから、どうやってこれほどまでのパワーが弾け出されるのか。8000回転以上ならばおよそ150hpは出ているに違いない。心拍数は限界まで上昇し、落ち着くまでに何分もかかった。



次に乗った1750 GTAmは確かに1300よりも速かった。アメリカ仕様の1750GTVをベースにしたこのモデルは、グラスファイバー製アウターパネルとプレキシガラスをもつ。200hpを発揮する1985ccエンジンに、わずか930kgという軽量ボディの組み合わせ。だが、正直なところ、あまり興奮は覚えなかった。高いギア比を持つため、その走りは遥かに文化的だったからだ。

あるジャーナリストが「一番楽しかったのはどれ?」と尋ねてきたが、どんな答を期待されているかはすでに理解していた。TZは間違いなく魅力的だった。デザインが美しく、運転して素晴らしい。TZはドライバーを有頂天にさせてくれる…..。



しかしながら私はGTA1300ジュニアを選ぶ。こいつはまったく正気の沙汰ではない。サーキットでは走れば走るほど、どんどん速くなっていく。これまで、こんなに楽しい乗り物を味わったことは一度もない。ここに並んでいるどの車よりも、レースの荘厳さを説明してくれるように感じるのだ。レーシングカーは単なるパーツの集合体ではなく、もちろんシャシーの下を覗いたり、ボンネットを開けたりして説明できるようなものでもない。そう、これぞ、アウトデルタの魔法というべきものなのだ。

Words: Robert Coucher

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