2万7000cc航空機エンジンを積んだドラゴンカーの正体とは?

Photography:Paul Harmer

イル・ドラーゴ・ルッジエンテは、スウェーデンの愛好家が自分の納屋で自作した"ブルックランズ・スタイル"のレーシングカー。2万7000ccの巨大な航空機エンジンを搭載している。これを伝説のバンクでねじ伏せてみることにしよう。

ブレーキはどうかだって?最悪だ。小さすぎて、最初のコーナーで跡形もなくなった。理由は明快。こいつは40 馬力かそこらのA型フォードから持ってきたドラムブレーキで、つまり、イソッタ・フラスキーニ製のV型2万7000cc航空機エンジンが発生する750bhp、1400lb-ft(193.6kgm)のエネルギーを御することなどとても無理だということだ。

白煙を吐きながら唸るドラゴンのスカットルにはイタリア語で「イル・ドラーゴ・ルッジエンテ(唸る龍)」とある。もしエンジンこそが車の本質なのだとするなら、エンジンの国籍こそ車の国籍なのかもしれないから、これは頷ける話だが、このドラゴンはそれよりはるかに国際的だ。シャシーは1924年のドラージュD1、すなわちフランス生まれ。ギアボックスは1940年代のフォード・トラックで、アクスル、ブレーキ、ホイールなどは1932年のA型フォードとアメリカ製だ。しかも、このドラゴンはスウェーデン人の作である。



ITビジネスマンのグレン・ビルクヴィストは車趣味が高じてヴィンテージスタイルの怪物マシンを創作したいとの欲望にかられた。前作はフォードA型をベースにブガッティ風に仕立て"Forgatti"。もともと彼は数々の、もう少し普通のオールドカーも所有していて、そのうちの何台かは今も手元にある。このドラゴンを運ぶトレーラーの牽引車としても使われているオーバーン・スピードスターのレプリカ、アルザス製のマティス、そして定期的に出場しているレース用としてライレーTTスプライトのそっくりさん、アミルカーなどなどだ。

そして怪物マシンのジャンルでは、速度記録車のバブスやネイピア・レイルトンのような1920年代のレコードブレーカー風のスタイルにしたいと考え、結果的にはそれをスウェーデンの南部マルメにある彼の納屋に籠もって、ひとりで造り上げてしまった。「イングリッシュホイールでの板金に没頭したよ。2009年にアルミパネルの絞りと伸ばしから習い始め、2010年からこれの製作にかかった」ボディが完成したのは2013年だった。



今日、私たちは、イル・ドラーゴ・ルッジエンテのような車
にとっては聖地といえる、サリー州のブルックランズ・サーキットにいる。私が着いたとき、"怪物"はまだ来ていなかったので、それ自体が歴史遺産であるベルマンのウエリントンハンガーで飛行機を眺めていた。すると突如として爆音が聞こえ、私は外に飛び出した。ダークなブルーグリーンの巨大なものが、膨らんだリアクォーターから炎を吹き出し、煙を噴出してぶつぶつ不平を言っているようだった。排煙の量が凄まじい。遠心式スーパーチャージャーのブーストが上がるまでは燃焼効率がひどく悪く、「実際、1ガロンあたり2マイルってとこだろう」とグレンはいう。排気は青みがかり、深いオイルパンに溜まった55リッターのオイルの一部が混入している事を示している。そのオイルパンはグレンのオリジナルだ。

このエンジンは本来の居場所であったイタリアのカプローニ社製Ca313双発爆撃機では、メッサーシュミットBf109などと同様、冷却効率が有利な倒立V型として搭載されていたが、ドラゴンでは正立に戻されているため、グレンはオイルパンを製作し、シリンダーヘッドからオイルパンに戻るいくつかのリターンパイプを作った。

読者は、この車のラジエターシェル内にラジエターが存在しないことに気がついたかもしれない。正解。これは空冷エンジンで、グリルメッシュの後ろに巨大な電動ファンを備えている。これでは冷却が心配だが、本来航空機用エンジンは、新しい職場ではあまり懸命に働かなくても済むので、心配するほど熱くはならないのだそうだ。

「ルーバーも充分に切ってあるし、それにオイルクーラーも付
けた。必要ないがね」とのことだ。アイドリングでも時速75マイル(120km/h)が可能というが、回転を上げていったらどこまで出るのだろうか。

「アクスルレシオから計算するなら124マイル(320km/h)
は出るべきだが、まだそこまで出したことはないし、そんなスピードのものに乗りたいのかどうかまだ心が決まらない」と製作者は告白する。だが、私は今、まさに「そんなもの」に乗ろうとしているのだ。

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation:Kosaku KOISHIHARA Words:John Simister 

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