2万7000cc航空機エンジンを積んだドラゴンカーの正体とは?

Photography:Paul Harmer



始動にはポートに"呼び水"が必要で、次にダッシュボードのハンドルを回してマグネトーを回転させて発火を継続させ、その間に床下の圧縮空気タンクのタップを開けてブロワーをインレットポートに通す。運がよければエンジンは目覚め、安定する。次にはどのようにパワーを与え、スタートさせるべきかを学ぶ必要がある。ラフな焼結合金クラッチ、そしてハイギアにのみシンクロメッシュを持つギアボックスも問題ではない。

基本的に航空機エンジンは比較的緩やかな速度変化、または一
定のスピードで回すよう設計されている。だからブリッピングなどは想定されていないのだ。右足で左右4個のキャブレター・スロットルバルブを操作しつつ、手はスーパーチャージャーのエアバルブコントロールのハンドルを動かさなければならない。

「一度に考えるべきことが結構たくさんがある」と、グレンは
いう。「このような操作は嫌いではないが、多少改良してみようとは思っている。だって、爆撃機時代はこんなに面倒であったはずではないからだ」

不慣れな私のためにスーパーチャージャーのバルブをいわゆる中間位置に固定して、どうなるか見ることにした。左サイドのエグゾーストパイプを超えてよじ上り、ランバーサポートなど皆無でシートバックが直立したシートにもぐり込んだ。エンジンはまだ回っている。クラッチペダルを用心深く踏み込んでローギアを選び、ゆっくりと繋ぐ。12個のピストンが軽やかに打ち、仕事をしていることを主張する。静かにアクセレーターペダルを踏み込めば一斉に点火を引き起こし、おいそれとは止まらないと思わせるエンジンの鼓動。



ブルックランズのバンクの使用可能な部分があまり長くはないことを思い出して不安がよぎる。さっさとセカンドギアをトライしなければ。そしてサードもだ。私は、自分がどれほど速いのか分からなかった。ほとんどが航空機用である12個のメーターのうち、生きているのは回転計、油温計、燃料と圧縮空気のプレッシャーゲージのみ。「対気速度計くらいは直せるかも知れない」とグレンは考えているらしい。

たとえそれがどれほど速かったとしても、2500rpmで最高速に達する安定した状態であることを回転計が示していた。それでも私はグレンの能力不足のブレーキについての説明が頭から離れず、酷使されたドラージュのステアリングシステムと格闘しながらドラゴンを回頭させるためにブレーキとも闘った。

私は渾身のブレーキングでなんとかターンを可能にしたし、ま
たダブルクラッチでノンシンクロのローギアに落とせたのは自分でもよくやったと思う。さらに走行は続いたが同じブルックランズ内にあるメルセデスベンツ・ワールドのテストトラックでコーナリングフォトを撮影しようという試みは、燃料ラインの詰まりによって中止となった。

マシン全体の印象は、2年前に仕上げられた車にしては驚異的に1920代の本物の臭いがあることだ。グレンは使われているパーツ自体が時代物である所為だろうと指摘した。それまでにも何台もの車をリペアした経験を持つ直観的なエンジニアは、今回のこのタスクにどう着手したのだろうか。

それは、ミュージアムから放出された設計が1927年という
エンジンを入手したことから始まった。実はグレンは2基エンジンを入れている。1基は完全だったがシリンダー2本が錆びていた。そこでもう1基をパーツ取りとして入手したというわけだ。次いでこのエンジンの詳細が載っている航空機関係の書籍を見つけた。それによれば、このエンジンは爆撃機が雪中に着陸した際に片方の車輪がロックして雪の壁に激突し壊れるまで、68時間使用されたことが分かった。

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation:Kosaku KOISHIHARA Words:John Simister 

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