ボディのペイント剥離が物語る奇跡の発見|バイヨン・コレクション「マセラティA6G 2000」

1956年マセラティA6G 2000グランスポール・フルア(Photography:Dirk de Jager)



復活の雄叫び
「私が手を加えたのは、油脂類やスパークプラグを交換し、キャブレターを整備し、ポイントを磨いたくらいだよ。それだけで始動したんだ。最初から付いていた3枚羽根の冷却ファンはそのままだが、それでも充分冷えるよ。そうそう、ボラーニのワイヤホイールだけは新しくした。もちろん純正と同じものを探してね。それにはピレリのステルビオを履かせたよ」そう言いながらもジョナサンは、ボディの錆びがそれ以上ひどくならないように気をつけてはいたという。

キーをひねると、3基のダウンドラフト・ウェバーは男性的な雄叫びを発しながら深々と空気を吸い込む。すると間髪入れずに、エグゾーストはエンジンが吸い込んだ混合気を爆発的な轟音とともに一気に吐き出した。そのエンジンサウンドは機械的であり、しわがれ声のようにも聞こえた。6気筒で、排気量わずか2リッターのエンジンの中では、小さなピストンがアクセラレーターのわずかな動きに俊敏に呼応して、シリンダーの中を忙しく動きまわっている。

スリークなスタイルからは想像できないほど、じつはやかましい車である。でも思い起こしてほしい。レーシングカーにちょっとだけ手を加えた車であることを。そしてまたすらりとした衣装は、フルアが超軽量アルミニウム板を用いてロードカーに仕立て上げたことも。

「うるさいのはしかたないよ。本当に老木だからね」とはジョナサンの言葉だが、その態は困っているふうでもなく、むしろ誇らしげである。実際、我々は乗せてもらったが、エンジンをふかすたびに、メカニカルノイズが車じゅうに響き渡ったものだ。4段ギアボックスのシンクロメッシュはかなりくたびれており、ギアチャンジの際にダブルクラッチは必須だったが、短めのシフトレバーは最小の動きでカチカチと小気味よく決まり、操作は喜びそのものだった。

路上に出るとすぐに速さと俊敏性が伝わってきたが、プッシュすればするほど反応が鋭敏になっていくのは本当に素晴らしかった。もっと回してみたかったが、「このエンジンで一番いい音がするのは4500rpmから5000rpmの間だよ」とのジョナサンの言葉は掛け値のないところである。直列6気筒はたいていトルク重視だが、上のほうまで回りたがるこのエンジンならすぐにでもレース向けに仕立て直すことができるだろう。

乗り心地は当然のことながら硬い。だが、不快に感じるような硬さではない。それは軽い重量によるものだろう。サスペンションは特に変わったものではない。当時としてはごく当たり前のシステムで、フロントがダブルウィッシュボーンとコイルスプリング、リアが半楕円リーフというものだ。さらに1本のフード・ハイドローリック・レバーアーム式ダンパーが各輪をコントロールする。これは車輪がバンプに乗って横にスキップすると、そのときアクセルを強く踏むことで車軸のばたつきを抑えるというものである。ドライバーはこれによって違和感を感じることなく、完璧に近い感覚でコーナーを抜けることができるのだ。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:David Lillywhite Photography:Dirk de Jager

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