1949年発刊の古書『ル・マン24時間』の美しい挿絵|AUTOMOBILIA 第8回

ル・マン24時間 通常版の表紙(Photos:Kumataro ITAYA)

前回に引き続き紙モノを。今回は1949年に出版されたル・マン24時間の本である。書籍をとりあげるのは本稿第三回のローレンス・ポメロイ著「ザ・グランプリカー」以来二回目。奇遇なことに、「ザ・グランプリカー」と「ル・マン24時間」の二冊は、どちらも1949年に刊行されている。


ジオ・ハム(GEO・HAM)
まずは本書の概要から。

タイトルはずばり、ル・マン24時間。フランスで1949年の6月に出版された書である。本稿の第三回でとりあげたローレンス・ポメロイのザ・グランプリカーが1949年5月の刊行なので、ほぼ同時期に、英国とフランスで大作本が出版されたことになる。

ル・マン24時間の本は縦32cm横24.7cmの大判で、しかも474頁、ずしりと重い。著者は航空機に明るく、自身も1931年から1937年まで(1936年はレースそのものが開催されていない)連続して6回、ドライバーとしてル・マンに参戦経験のあるロジェ・ラブリ(ROGER・LABRIC)、彼はドライバーとしてだけでなく、1937年にはチームを率いて優勝もしている。ちなみにその時の車両はブガッティT57Gであった。

この書籍の発行元は、ル・マン24時間レースを主催しているフランス西部自動車倶楽部で、1949年とは、第二次大戦の影響で1940年から中断されていたル・マン24時間レースが再開された年。したがって、本書が扱っているル・マン24時間レースは、1923年のレース開始時から、レースが中断される1940年の前年、すなわち1939年までである。

フランス人の著者によって、フランスで刊行された書籍なので、言語は当然フランス語。それでも、わたしにとってこの本が魅力的なのは、ジオ・ハムことジョルジュ・アメル(GEORGES・HAMEL)の挿絵に因る。モナコ・グランプリ等のポスターを描いていることでも知られるジオ・ハム、本書には彼の挿絵が100枚以上も収められている。その内訳は、車両関係の挿絵が約60枚、人物が約70人分、と実に多彩。たとえフランス語が読めなくても、美しい挿絵だけで充分に愉しむことができる。

しかも、各年のレース戦績、これまで参戦したドライバーやメークス、コースの変遷、などが詳述されており、ひとたびページを開くと時間の経つのを忘れてしまう。

装丁
欧州の出版物には装丁の異なるものが用意されていることがある。

ここで毎回恒例となりつつある脱線を。それはハリー・ポッターのヒットで一躍有名になったエディンバラの町を歩いていた時のこと。エディンバラ城とホリールード宮殿を結ぶロイヤルマイルと呼ばれる道に、小さな古本屋をみつけた。早速店内にはいると、クルマの本は見当たらなかったものの、児童書は豊富。そのなかに、くまのプーさんの初版本があった。くまのプーさんは1920年代に出版された4冊の連作からなっていて、それらの初版は日本でも展示されたことがある。ところがエディンバラの古本屋でみつけたくまのプーさんは、4冊とも革装の立派なもの。奥付にも特装版である旨が記されている。

やはり欧州は階級社会、1920年代であれば、その様相は現在よりも際立っていたかもしれない。子供向けの本ですら、通常の装丁のものと、革による特装版が用意されていたのである。しかも、通常版には、それがスタンダードエディションであるとは、どこにも書かれていない。特装版はそれを目にしない限り、存在を知ることはない、というところにも、戦前の奥深い欧州らしさが感じられた。

もうおわかりのように、1949年刊行のル・マンの本にも、いくつか装丁違いが存在している。その頂点は革装のもの。次いで、1000冊限定の特装版がある。この特装版は、一見すると同じような外観をしているのだが、本の厚さが異なっている。特装版の方がはるかに厚く、もちろんシリアルナンバー入りとなる。

手許にはシリアルナンバーのない通常版しかないので、その差は不明ながら、本自体の厚さの違いから想像するに、特装版は本文や挿絵が印刷されている紙が違うのだろう。特装版に対する興味はまだある。紙や装丁が異なれば、当然香りも違ってくるはず。香りも書籍のたのしみのひとつ。本稿ではお伝えすることができず、その点は残念でならない。

文、写真:板谷熊太郎 Words and Photos:Kumataro ITAYA

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