ロード・モンタギューの記憶│誰よりも古い車への情熱を持って動いた人物

Photography:National Motor Museum

ハンプシャー州ビューリーの英国国立自動車博物館の前キュレーター、マイケル・ウエアがこの博物館を創立したロード・モンタギューの多彩な生涯を振り返る。英国南部ハンプシャーのビューリーに7000エーカーの領地を有していた、3世ビューリー男爵エドワード・モンタギュー。国立自動車博物館の基礎を作ったことで知られ、とても多彩な生涯を送った人物でもある。私はモータースポーツ写真家として1960 年代に卿と知り合い、63年に写真司書としてビューリーに入り、その後キュレーターとなって定年まで40年近く勤務した。



ロード・モンタギューは1928年、父親の突然の他界によりわずか2歳で世襲貴族となり、定めに従って25歳になって1951年に領地を相続した。だが、相続したものの、領地からは居宅のパレスハウスを維持するだけの収入すらも得られない状態であった。若きロード・モンタギューは収入を得るべく、館を一般に公開する決断を下した。その切っ掛けとなったのは、これより数年前に、イングランドのウィルトシャーにあるロングリートの館が、カントリーハウスとしては英国で初めて一般公開されたことだった。

彼の父、ジョン・ダグラス・スコット・モンタギューは、1899年にコヴェントリー製のデイムラーを購入し、彼のショーファーと組んで同年のパリ・オステンドレースに出場したというパイオニア・モータリストで、自動車の普及に熱心に取り組み、英国初の自動車誌『カー・イラストレイテッド』を発行している。また、議員であった彼は初めてエンジン付きの車を国会議事堂内に乗り入れ、これにプリンス・オブ・ウェールズ(後のエドワード7 世)を乗せ、王子は自動車に乗った初のロイヤルファミリーとなった。その後、エドワード王子は、1900年に世界初の御料車となるデイムラー1527cc(2気筒、6hp)のメイル・フェートンを購入される。



パレスハウス内には車数台分のスペースがあり、ロード・モンタギューはそこをミュージアムと呼んだが、間もなく正式にモンタギュー自動車博物館と命名した。これはモータリングのパイオニアとして知られる父親に由来したものだ。

1952年当時、英国ではここ以外に自動車博物館は存在せず、古い車は科学博物館などに点在するだけで、1538年以来一族の居宅だったパレスハウスにめずらしい車が展示されると、大衆の好奇心を掴むことになった。来館者の人気は上々で、彼はオールドカーを呼び物とすることにした。このころ、飛行家のパイオニアでもあったバルビゾン卿がモンタギューのものよりも規模の大きな車のコレクションを一般公開し、大きな人気を博した。


モンタギュー卿の領地内には、自動車博物館のほか、川沿いには歴史的な船大工村のバックラーズハードがあったが、ここには海洋博物館が作られ、1963年に海軍元帥マウントバッテン伯爵によって開館のセレモニーが行われた。これによりさらに来場者が増えた。

それまでに300台を超えていた自動車コレクションは新設の公益信託が運営することとなり、敷地内に新しく国立自動車博物館が建てられ、1972 年7 月4 日にケント公爵の臨席のもとで開館した。

モンタギュー卿は熱心に資金調達にあたり、新しい展示を段階的に拡充していった。最近になって長く務めたチェアマンの座を降りるまで、晩年は車椅子に頼っていたにもかかわらず、週に3日はロンドンの上院へ通い、友人達とのミーティングに参加した。



現在、世界中で加熱気味となったオールドカーのオークションは、英国では1962年にビューリーで開催されたものが最初である。さらに、今やオックスフォードの辞書にも載っている、車のパーツ交換市を表す「オートジャンブル」はロード・モンタギュー作の造語であることをご存知だろうか。

ロード・モンタギューは、博物館のコレクションで世界中のイベントにも参加した。ロンドン-ブライトン・ランはほぼ皆勤で、しかも毎回、ジャッキー・スチュワート、ジム・クラーク、グレアム・ヒルなどのGPドライバー、あるいは他の超有名人が助手席を飾った。また、ケント王子をコドライバーとして、1914 年型ロールス・ロイス・アルパインイーグルで、オーストラリアのパースからキャンベラまでナラーボア平野を横断したこともある。第1 回の北京- パリ・レースには、1915年のプリンスヘンリー・ヴォクスホールで参加しているが、ラジエターの故障により中国を出られずリタイアに終わった。

編集翻訳:小石原耕作 Transcreation: Kosaku KOISHIHARA Words:Michael E Ware 

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