夢のクルマをドライブする│完璧にレストアされたアストンマーティンDB4

Photography:John Colley

「百万長者になるよりは」とフランク・シナトラはミュージカル映画『上流社会』で歌っている。大金持ちの役得などいらない、「欲しいのは君だけ」と歌は締めくくるのだが、こうした夢の車を毎日自由に乗り回せるのも百万長者の大きな役得である。

アストン・エンジニアリングは、ダービー市街地を取り囲む環状高速道路のすぐ近くにある。だが、ワークショップのゲートをくぐり抜けた瞬間、このレストアされたDB4がドライバーの味方であることはよく分かった。最大の理由はパワーステアリングだ。また、エンジンを4.7リッターに拡大した恩恵も最初の100m で実感できた。これなら現代の交通事情でも通用すると大船に乗った気持ちになる。

外の世界を眺めるのに、これほど素晴らしい場所はない。シートがリビルドされてクッションも真新しいため(時間とともに圧縮はされるだろうが)、視点が比較的高い。それにもかかわらずルーフの内張が引っ込んでいるので頭上の空間は充分あり、視界は最高だ。レトロスタイルのベッカー製ラジオ兼ナビゲーションを別にすれば、目に付く唯一の変更点は刻みの付いたアロイ製スイッチだけで、これでフロントのパワーウィンドウを操作する。ラジオのスピーカーに見えるグリルを開くと、エアコンの調整パネルが現れる。まさに007スタイルだ。

唯一、バックルをはめる古風なシートベルトには問題があった。どんなにきつく締めても肩からずり落ちてしまうのだ。DBアストンはベルトラインより上にBピラーがないため、リールを付けるのは容易ではないが、方法はいくらでもある。これだけの大金を費やすのだから、私なら絶対に取り付ける。

DBアストンのシフトレバーには独特の魅力がある。小ぶりで華奢なところが車の男性的なイメージと対照的なのだ。ギアチェンジ自体は重くはないが、手首を正確に思い切りよく動かす必要がある。シフトダウンにはダブルクラッチも有効だ。正直にいえば不必要なのかもしれないが、回転数を合わせることを口実に直列6気筒に短い咆哮を上げさせるのは、面倒どころか大きな楽しみである。

この車なら、100mph の高速走行を1日中でも続けられるだろう。高速でも車内は驚くほど静かで安定感があり、風切り音も、ピラーのないウィンドウとは思えないほど小さい。また、エンジンが4.7リッターに拡大されているおかげで、ハイギアードにもかかわらず加速も力強い。出力は290bhp 強、トルクは4000rpm で330lb-ft(45.6kgm)というから、必要にして充分だ。もちろんサウンドも神々しいばかりで、やる気に満ちあふれた飽くことなき低い轟きは、まさに1950年代末のグランドツアラーの典型といえる。

パワーステアリングが少し鈍い点は気になった。ステアリングを切り始めると、一瞬固着したような感じがしてから急に動きが軽くなる。そのため、名テストドライバーのマーク・ヘイルズがよく言う「車にコーナーへ切り込むぞと"ヒント" を与える」ことが難しい。この点についてはアストン・エンジニアリングもちゃんと承知していた。ワークショップから上がってきたばかりで、サスペンション・ジオメトリーが未調整だというのだ。パワーステアリングを最大限に生かせるように調整すれば、キャスターアングルも改善するという。ささいな点ではあるが、対処する価値があるだろう。そのくらい他が完璧なのだ。

これ以上望ましいクラシックカーはちょっと思い浮かばない。もちろんイタリアンGTも素晴らしいが、イギリス人にとっては、人にアストンマーティンをドライブしている姿を見られること自体に独特の魅力がある。それを教えるかのように、高速から降りるランプに入ったところで、通り過ぎたバンのドライバーがクラクションを鳴らし、サムアップをしてくれた。これ以上の賛辞はない。「百万長者になれたら」と思わずにはいられなかった。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO( Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mark Dixon 

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