偽物かもしれないポルシェRSR R7を鑑定する│ノルベルト・ジンガーの目

octane UK

あるポルシェRSRのボディシェルが本物ではない可能性が浮上したため、オーナーは専門家に鑑定を依頼した。1973年にRSRを造り上げたノルベルト・ジンガーは、どのように真贋を見極めたのだろうか。

R7と名付けられたポルシェ911 RSRは、世界に1 台しかない特別な車だ。しかし、ポルシェ911はおびただしい数が存在し、初期のRSにも、本物に見えるが実は偽物という例が数多く存在する。レースヒストリーを持つRSR のレプリカを造ることも容易だ。

では、自分が所有するRSR R7は完品だと思っていたのに、「オリジナルのリベット留めの車台番号プレートを持っている」と主張する者が現れ、自分の車のオリジナリティーが疑われた場合、どうすればよいのだろうか。

まずは、ヒストリックポルシェのエキスパートでレストアラーのアンディー・プリルに分析を依頼する手がある。ボディに打刻された車台番号はもちろん、それが刻まれているパネルと残りのボディシェルとの溶接部に、手を加えた痕跡がないかを調べてもらうのだ。プリルはこうした調査に磁気探査技術を使っている。金属の"肌理(もくめ)" を検出し、X線のように可視化する技術だ。次に行うべきは、当時ポルシェレーシングチームのトップを務めていた伝説のエンジニア、ノルベルト・ジンガーに車を見てもらうことだ。R7のオーナーであるケニー・シャクターも、まさにこの二つの手段を取った。

調査の結果、プリルは「車台番号も溶接部分もオリジナルで、手が加えられていないのは100%確実」と報告した。プリルは次に、シュトゥットガルトにあるポルシェ・クラシック(快く場所を提供してくれた)のワークショップにR7を持ち込んだ。そこでノルベルト・ジンガーがR7を調査し、弁護士立ち会いの下で見解を述べた。その一部を紹介しよう。

・テールはル・マン出走時のものに見えるが、オリジナルではない。なぜなら、R7はロングテールを装着してからアメリカのピーター・グレッグに売却されたからだ。エンジンルームのクロスバーとバルクヘッドの補強はプロトタイプのRSRと同じもので、オリジナルのようだ。

・サスペンションタワーを溶接で補強した部分はオリジナルのようだ。フロントのストラットタワーバーに溶接された取り付け具も同様だが、ストラットタワーバー自体と燃料タンクはオリジナルのものではない。オイルクーラーとそのパイプはオリジナルと同じタイプで、オリジナルの可能性がある。

・リアサスペンションアームのピボット点は、上
方に10㎜、後方に50㎜移動されており、プロトタイプカーに行った変更と一致する。トーションバーもオリジナルのようにボールベアリングやローラーベアリングを使っており、ロード
カーのブロンズブッシュではない…。このように延々と続く。

ジンガーによると、コンペティションカーはその特性上、摩耗やダメージ、各サーキット向けのモディファイなどで、頻繁にパーツが交換された。したがって、現在のR7がチタン製のサスペンション補助スプリングやスチール製のフロントハブを装着しておらず、ギアボックスケーシングもオリジナルと違うことは重要ではないという。しかし、エンジンはピーター・グレッグに売却された当時のものを現在も搭載している。これは最も権威ある本と認められている『Carrera RS』(トーマス・グルーバー、ゲオルク・コンラーツハイム著)の最新版に記されている通りだ。

では、こうしたレーシングカーの身元を特定する要素は何なのだろうか。

ジンガーはこう答えた。「通常はシャシーが決定的要素になる。この車の場合はボディシェルだ。レースに適した車にするために必要な改造部分、つまりわれわれが取り付けたり変更したりした補強パーツや取り付けポイントなどが一致する。他のパーツはすべて替えがきくからね」

「私にとって決定的なのは、数字ではなく、シャシーに特定の改造が施されているかどうかだ。この車は、私たちが1973年に造ったRSRプロトタイプの1台だと断言できるよ」
 
しかし、間違いなくR7なのだろうか。「どの車
も根本的にはよく似ていた。本当にR7かどうかは、シャシーナンバーを元に決めるしかない。この数字(燃料タンク後方のシャシーに刻印されている)はオリジナルに見えるし、当時R7と名付けた車のシャシーナンバーだ」

そうなると、例のリベット留めのプレートは何なのだろうか。「私ならあまり注意は払わないね。リベット留めのプレートにすぎないからだ。そういうプレートは、簡単にドリルで穴を開けて付け替えられる。それに、基本的にそういったプレートをレーシングカーに使うことはなかったよ」

いたずらな車体番号プレートには少々心配させられたが、ノルベルト・ジンガーとそのクルー以上にこの車をよく知る者はあとにも先にもいない。そのジンガーとアンディー・プリルが本物だと太鼓判を押したのだ。これが正真正銘のR7であることに疑いを差し挟む余地は限りなくゼロに近いといえるだろう。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO( Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: John Simister 

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