シトロエンの隠れた名車│シトロエンCXのバイヤーズガイド

なぜかシトロエンCX は長い間DS の陰に隠れた存在だった。しかし、技術的にはほぼあらゆる点でDSを凌いでおり、外観でも他とは一線を画す。1975年にはヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーも受賞している。

シトロエンが型破りなメーカーだったことは、CXをドライブすればすぐに分かる。コクピットは独特で、ウィンカーやライト、ワイパーなどのスイッチがステアリングのすぐ脇に配置されている。セルフセンタリング機構付きのパワーステアリングは、ロック・トゥ・ロックがわずか2.5回転で、"テレパシーで操縦できる"感覚だ。非常に柔らかなシートも、ハイドロニューマチック・サスペンションで実現した乗り心地によく合っている。最初は慣れないだろう
が、緩やかな高速道路を少しでも運転すれば、敏感極まりないレスポンスにも慣れて、他の車では味わえない快適さと速さの組み合わせを楽しむことができる。

DSと同様、先進的なCXも開発費用が膨大な額に上った。その結果、シトロエンは倒産の一歩手前にまで追い込まれたほどだ。結局、1975年にはプジョーと合併したが、CXは17年間にわたって生産が続き、最後のモデルとなった"サファリ" がラインを離れたのは1991年のことだ。

ロベール・オプロン率いるシトロエンのデザインチームは、抵抗係数(Cd)0.36(フランスでの単位はCx、これが車名となった)という、常識を覆す空力性能を達成した。"女神" を意味するDSに比べればセクシーさでは劣るかもしれないが、CXは技術的な限界を押し広げようと追求を続けるシトロエンの決意表明そのものだったといえる。

DSで20年にわたって開発を重ねてきただけあって、シトロエンのハイドロニューマチック・サスペンションもCXで完成を見た。その実力を最も実感できるのが、CXの中でもホイールベースの長い"プレスティージュ" のリアシートだ。ロールス・ロイスがライセンスを得て採用しただけのことはある。

だが、CXにも未来的でない部分があった。それが、ぱっとしないエンジンだ。4気筒エンジンには2.0、2.2、2.4 リッターがあるが、DSから継承されてきたユニットだった。それでも、ギャレット製T03ターボチャージャーを搭載した2.5リッターのターボとターボ2では、なかなかの速さを実現した。1980年以降は、一部にプジョーのエンジンも使用されたが、残念ながらV6は搭載できなかった。シトロエンの資金が尽きていなければ、当初の予定通り、3ローターのヴァンケル式エンジンが採用されていたかもしれない。

シトロエンは、自社が誇る高級サルーンとして1980 年代もCX の改良を続けた。1985 年の大々的なアップデートでは外観も一新し、バンパーが埋め込み式になった。とはいえ、それ以前のデザインも、多くの点で大半のライバルより時代の先を行くものだった。

DSが唯一無二の女神であることに異論はないが、その後継車であるCXもまた称賛に値する車だ。しかし、評価はいまだに追いついておらず、優良品のCXがボロボロのDSと同程度の価格で取り引きされている。これほど優れた車を無視するのは、もう終わりにすべきだろう。

注意点
サスペンション、ステアリング、ブレーキ等のハイドロリック系は維持がしやすく、スペシャリストによる定期的な整備を受けていればトラブルも起きない。新品の入手が不可能なパーツも多いが、リビルドは可能だ。乗り心地はソフトでダンパーが効いているはずだが、硬く落ち着きがない感じだとすると、スフィアの交換が必要かもしれない。

最大の問題となるのが錆だ。特に1970年代の車は注意が必要。最も重要なのが、ボディ下面の縦通材とリアのサブフレームをよい状態に保つことで、この部分が傷むとコストが高すぎて手が施せない可能性も出てくる。フロアパンとシルも腐食することは多いが、一般にこちらのほうが修復しやすい。

シリーズ1のドアをはじめとして、大半のパネルは調達がほぼ不可能で、錆も進行しやすい。ピカピカに見える車でもパテ埋めされていないか注意する必要がある。比較的安いモデルなので、そうした修理方法はいまだにめずらしくない。

CXのエンジンはエキサイティングなものではないが、一般的に信頼性が高く、驚くほど長持ちする。ターボモデルは問題が出やすく、特に冷却系にトラブルが多い。

マニュアルとZF 製オートマティックギアボックスは強靱だが、問題発生した場合のリビルドは高額だ。半自動のCマチックもおもしろい選択ではあるが、維持が難しい。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA

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