シトロエン CXプレステージュ|フランス大統領や実業家などVIPのための華麗なる一台

1976年製シトロエン CXプレステージュ(Photography:Martyn Goddard)

国を動かすトップたちの足となり、比類なき快適性を提供してきたCXプレステージュ。これは、史上最高のシトロエンなのだろうか?

「あと必要なのは、機動憲兵隊だな…」ビロード生地に覆われたシートクッションに身体をもうほんの少し深く沈めながら、私は、そうつぶやいた。ライトを点滅させながら併走するトリコロールのバイクに跨がる警備部隊。フランス共和国にとって重要な任務を負う彼らにふさわしい、金色の飾緒を付けた洒落た制服を着た憲兵たちだ。もしくは、ミラーサングラスをかけた運転手兼ボディガード。そして私が重大な責務について考えを巡らせながら、ビロードのように柔らかな静けさに身をゆだねる傍らで、私のスケジュールをてきぱきと管理する有能な秘書。

それは頂点に立つために生まれた
どちらのシナリオも、この車にはぴったりのシチュエーションだろう。シトロエンの愛好家の多くは、CXシリーズをシトロエンの頂点であり、エンジニアリングに対するチャレンジ精神と優れた技能の証であると考えている。この精神と技能は、その後、徐々に衰退し、ついにシトロエンの全ラインナップからハイドロニューマチック・サスペンションが姿を消すことになった。

CXプレステージュは実に勇気あるアイディアによって生まれた。実業家や文化人、そしてフランス政府最高位の要人たちの足となるだけでなく、フランス以外の政府関係者にも愛された。

機構的な面で言えば、1974年式CXはその先行モデルであるDSの発展型だ。すなわちセルフレベリング機構付きハイドロニューマチック・サスペンションとパワーアシストブレーキ、そして同じく高油圧システムを活用したパワーステアリングを備えるという、フルサイズの前輪駆動のDSベルリンをほぼ踏襲していると言っていい。DSではエンジンが縦置きだったが、CXでは横置きになっている。さらにCXは、名車SMの速度感応式パワーステアリング技術を引き継いだ。

かの有名なシトロエンのロベール・オプロンによってデザインされたボディワークは、風洞試験を通してさらに空力性能が向上され、その空気抵抗の少ないエアロダイナミックデザインから、抵抗係数を表す記号を用いて"CX"と名付けられた。

ベースモデルでさえも素晴らしく魅力的で、ゆったりとしたスペース、快適性、そして際立つ優美さを備えていた。デビューと同時にヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞すると、とりわけハイグレードのパラス仕様はエグゼクティブたちを魅了し、背丈の高い大統領たちの手にも渡った。しかし当初から、シトロエンには文字通り、もっと大きなプランがあった。1975年、シトロエンはル・マンの南西に拠点を置くコーチビルダー、ユーリエと契約し、国務のニーズにより適した車を製作するよう依頼した。これは、ヴァレリー・ジスカール・デスタン大統領が、大統領専用車となった新型CXベルリンのキャビンが狭すぎるとの(やせ気味ではあったが、身長が190cm近くあった)、感想を述べたことがきっかけであるといわれている。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.)Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobicurators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE(CK Transcreations Ltd.) Words:Dale Drinnon Photography:Martyn Goddard

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