シトロエン CXプレステージュ|フランス大統領や実業家などVIPのための華麗なる一台

1976年製シトロエン CXプレステージュ(Photography:Martyn Goddard)



セントラルロンドンの洒落た雰囲気は、プレステージュのホームタウンであるパリに匹敵すると言っていいだろう。ロイヤル・アルバート・ホール周辺の広く静かな大通りで、私は運転を替わった。優れたブレーキとゴーカートのように正確で応答性の高いステアリングを備えるクラシック・シトロエン。そして、信じがたいことに、ロングホイールベースは路面に空いた大きな穴による衝撃も吸収し、その伝説的な乗り心地を一層高めている。

常にクラシック・シトロエンの問題であった貧弱な4気筒エンジンの馬力を考えれば、低速域での加速も驚くほどすばらしい。しかしマイケルによると、このパワーはローギアリングによるところが大きく、時速80〜85マイルも出ればいいところらしい。心理的な影響もあるのだろう。広々としたインテリアは、この美しく大きな車体を、あたかも超高速で運転しているような錯覚に陥らせるが、実際はSMよりもわずか10インチ長いにすぎない。

まぁ、そんなことは気にすることもないが。縦に取り付けられたラジオ、特徴的なボビン式スピードメーターとレヴカウンター、インストルメントクラスターに散らばる17種類の警告灯など、すべてはエンターテイメントの一部なのだ。くしゃみが出ないことを除けば、まるで羽毛のマットレスのようなシート。当時販売されていた同等の"支配階級用"大型メルセデスでも、フロント、リアのいずれにもこれに相当するシートは採用されていなかった。

だがシトロエン愛好家はある意味正しい。このエンターテインメントは、プレステージュが発売される前に終わっていたのだ。シトロエンは軽率なパートナーシップを組み、悩みの種であったアンダーパワーを解決できたかもしれないロータリーエンジンの開発に失敗して大金を失い、1973年に勃発した第一次石油危機に途方もなく苦しみ、そしてついに、CXが生産を開始した矢先の1974年、やむを得ずライバルであるプジョーの傘下に入ることとなった。

シトロエンはその後も、革新的でスマートな車を開発した。しかしなぜかDSやCXが人々を魅了した重要な要素は、C6の生産が完全に終了する2012年までにかけて消滅の一途をたどった。C6は、有識者のためにデザインされた、存在感と高性能を誇るエレガントなシトロエンの最後の一台となった。新しいシトロエンはどれも、他の車とは違うという魅力が薄れていったのはとても残念なことである。

1976年製シトロエン CXプレステージュ
エンジン:2347cc、4気筒、OHC、ウェバー製34DMTRキャブレター
最高出力:115bhp/5500rpm 最大トルク:17.9kgm/3500rpm
変速機:4段MT、前輪駆動 ステアリング:ラック・ピニオン、パワーステアリング
サスペンション:前後ともセルフレベリング機構付き
ハイドロニューマチック・スプリング/ダンパーユニット、
前/ロアウィッシュボーン、後/トレーリングアーム
ブレーキ:ディスク、油圧式 最高速度:112mph(公表値)0-100km/h 12秒

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.)Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobicurators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE(CK Transcreations Ltd.) Words:Dale Drinnon Photography:Martyn Goddard

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