世界で最も長く続いた自動車の実験プログラム「メルセデス・ベンツC111」

1971年メルセデス・ベンツC111-II(Photography:Steffen Jahn)

メルセデス・ベンツC111は世界で最も長く続いた自動車の実験プログラムだった。最後に残った走行可能な一台のステアリングをOctane編集部は幸運にも握ることができた。

少年が憧れる夢の車の世界には、安全実験車から速度記録車、単なるスタイリング・プロトタイプやエアロダイナミクスのデザイン・スタディまで実に様々な"ドリームカー"があるが、私にとっては常に他よりも強く輝いている一台があった。ひと目で私を惹きつけた車、それは鮮やかなオレンジ色のメルセデス・ベンツC111だった。当時の他のメルセデスがすべて(たとえ高性能モデルであっても)、誰が見ても間違いなくサルーンの代名詞のような四角い形だったのとは対照的に、ショーの主役に相応しい矢のようなスタイルを持つミドシップのC111は、今なおクールで未来的に見える。このラインを描いた人物がブルーノ・サッコと聞いてもなかなか信じられないのではないだろうか。なにしろ彼は1958年から99年にかけてメルセデスの社内デザイナーとして(75年からはデザインの責任者だった)、3世代にわたるSクラスやR129型SL、そしてW201型190セダンを手掛けた人物なのである。

唯一の動態保存C111
C111計画では全部で14台(13台との説もある)製作されたというが、このうちで生き残った9台(1台は派生型のCH2)が、一堂に会した初めての特別展がシュトゥットガルト、ウンターテュルクハイムのメルセデス・ベンツ・ミュージアムで開催されたことがある。9台はいわば籠の鳥となったが、この1台だけは、いまだに自由の身なのである…。

オクタン・ドイツ版の編集長であるバートルド・ドーリッヒと一緒に訪れたのはメルセデス・ベンツ・サービス&パーツ(それまでのメルセデス・ベンツ・クラシック)、言わずと知れたクラシック・メルセデスのレストアとパーツ供給の本拠地である。クラシック・メルセデスを直すのにメルセデス自身よりも相応しいところがあるだろうか。我々が訪れたのは、間もなく開催されるミッレミリアに向けて準備の真っ最中であり、そこら中にワークス300SLがあふれていた。さらにはモスやファンジオ、クリングが乗ったSLR、そしてオープンホイールのW196グランプリカーまでが佇んでいた。まるで宝石箱の中身をぶちまけたような光景だったが、その中でもC111はひと際目立っていた。

オレンジというより実際にはブロンズに近い(ドイツ語で"weissherbst":白い秋という色らしい)C111のガルウィングドアの片方が誘うように跳ね上げられていた。その小さく整った姿は驚きだ。大きさとしてはVWシロッコを想像するとちょうどいいが、存在感はデロリアンDMC12かイズデラ・インペラトールといったところである。ポップアップ式ヘッドライトのノーズは低く、スリットの付いたエンジンカバーとシンプルな丸いテールライト、そしてフライング・バットレスのおかげでテール部分は引き締まって見える。ガルウィングドアはもちろん300SLの伝統を思い出させるが、例によって立派な理由がある。深く幅広いサイドシルがボディ構造を支えるだけでなく燃料タンクを内蔵、そしてルーフにまで切れ込んだドアのおかげで乗り降りが容易になるのである。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Glen Waddington Photography:Steffen Jahn

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