世界で最も長く続いた自動車の実験プログラム「メルセデス・ベンツC111」

1971年メルセデス・ベンツC111-II(Photography:Steffen Jahn)



オーリンゲンを過ぎると道はさらにツイスティになり、まるでミニ・ニュルブルクリンクのようだ。テストルートは灰色の工業地帯を背に丘を上り、とんがり屋根の村と黄色に輝く畑の中に続いている。樹々に覆われてトンネルのようになった道、緩やかなコーナーをストレートが結ぶセクションなどが次々に現れる。そんな舞台でC111は優秀な能力を発揮する。ステアリングホイールからのフィードバックは正確だが穏やかで、自信を持ってラインを辿れる安心感がある。ステアリングのギア比は速いが神経質ではなくターンインでもごく自然だし、ミドシップレイアウトのおかげで、きついコーナーでもニュートラルに感じられる。

あふれるようなV8のトルクのせいで、高回転型ロータリーよりずっとのんびりした性格ながら、世の中の人が想像するよりずっと速く走ることができる。ギアシフトはストロークが長いが正確で、何となく穏やかな高速プロトタイプの雰囲気に合っている。もし、ナルドで12時間、フラットアウトで走ってみないかと誘われたらどうだろう。正直に言って、それは聞くほどドラマチックなものではないだろう。この車は無理矢理にパワフルなエンジンを詰め込んだ派手なショーカーなどではない。いわば実験室に車輪がついたようなものである。速く、正確で効率的なのだ。

静粛性も素晴らしい。とりわけノイエンシュタインからオーリンゲンに戻るアウトバーンに乗った際には実に印象的だった。その各種性能の優れたバランスについては当時の記事でも確認できる。1970年4月、レーシングドライバーにして有名なジャーナリストだったポール・フレールは『モーター』誌にこう寄稿している。

「この車は飛び抜けた快適性とハンドリングをともに備えている。しかもそのハンドリングについては間違いなくレーシングカーのレベルにある」

我々には時間制限があった。ウンターテュルクハイムの門が閉じられる前に、スタッフが帰らないうちにメルセデス・ベンツ・ミュージアムに車を戻さなければならなかったからだ。街中に戻る渋滞の中でもC111は機嫌よく、アウトバーンの巡航時と同じようにまったく平穏だった。ミュージアムの特徴的な建物は、スリーポインテッドスターがあふれる工業地帯の中でもひときわ目立っている。その正面にC111を停めて、ガルウィングドアから這い出して改めて眺めてみる。フロントのホイールアーチからショルダーラインにかけて伸びるカーブは、最新のCクラスセダンとそっくりだ。50年近くの時間を経てもなお、この画期的なプロトタイプが世の中に与えたショックを感じることができるのである。

1971年メルセデス・ベンツC111-II
エンジン:3499cc、V型8気筒、SOHC、電子制御燃料噴射
最大出力:約230bhp/6500rpm トランスミッション:5段MT 後輪駆動
ステアリング:リサーキュレーティング・ボール
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、
テレスコピックダンパー、スタビライザー
サスペンション(後):マルチリンク、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、
スタビライザー

ブレーキ:4輪ディスク 車重:約1300kg 最高速度:210km/h(推定)

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Glen Waddington Photography:Steffen Jahn

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