サウジアラビアで発見された幻のマセラティ5000GT

octane UK

他に類のない数億円相当ともいわれるマセラティの行方が数十年ぶりに判明した。その場所はサウジアラビアだ。発見のきっかけは、エンスージアストがマンチェスターのパブでしていた車談義からだった。

発見者のザク・マザーは生粋のエンスージアストで、車の仲介やレストアを生業にする家に生まれ、自身もクラシックカー数台の販売を始めたばかりだった。その夜、マザーが同好の友人と飲みながら話に花を咲かせていると、近くのテーブルにいたサウジの紳士がそれを聞きつけて話しかけてきた。聞けば、アストンマーティンDB5 やDB6ヴォランテを含むコレクションを所有しているという。

紳士は1 枚の写真を見せた。見慣れないマセラティがステージの上に展示されている。「車のオーナーは兄弟だが、自分が管理を任されている」と紳士は話した。1970年代終わりに、この車を使わなくなった雇い主が紳士の祖父に贈ったもので、当時も使用された形跡はほとんどなかったという。祖父が亡くなるとマセラティは車庫にしまい込まれ、ほとんど手付かずのまま放置されていた。



マザーにはこれが重要な発見であることがすぐに分かった。さらに、その後の調査で、製造わずか34台の5000GTであることが明らかになった。5000GTは、イラン皇帝の提案を受け、レーシングカーの450Sのエンジンを搭載して造られた最高級GTカーだ。価格でもスピードでも世界最高を誇ったが、クランクの形状に問題があり、エンジンに故障が多かったことでも知られている。

イーグルスのギタリスト、ジョシュ・ウォルシュ
も5000GT を所有し、ヒット曲「Life’s Been Good」では「俺のマセラティは速度185…」とっている。もちろん185mphは誇張だが、テストドライバーのグエリーノ・ベルトッキとジャーナリストのハンス・ターナーが、アウトストラーダで172mphと168mphを記録している。かつてのオーナーには、名優スチュワート・グレンジャーやブリッグス・カニングハム、アガ・カーン4世、ジャンニ・アニエリなど名士が並ぶ。



5000GT のボディはほとんどがアレマーノやツーリング、フルアが手掛けたが、写真の車は1台だけ知られているギア製ボディであることにマザーは気づいた。新車で購入したのはイタリアの企業家フェルディナンド・イノチェンティで、1960年代末にナポリにあったことが知られているが、その後はずっと行方不明だった。

マザーは売買契約を結ぶとサウジに飛んだ。「内心、恐れおののいていましたよ。非常に重要で貴重な発見だったので、この機会を逃すわけにはいきません。それでも、不安などという言葉ではとても足りませんでした。だって考えてもみてください。車の由来といい、発見の経緯といい、あまりにできすぎた話じゃありませんか。実物を見るまでは、きっと詐欺に違いないと思っていました」とマザーは話す。

しかし、詐欺などではなかった。車の重要性が確かめられ、購入手続きもスムーズに進んで、2017年春にはマセラティをヨーロッパに輸送する手はずが整った。ところがそこでサウジアラビア当局が輸出承認に待ったをかけたのである。以来、今日まで状況は進展していない。



「あまり期待しないようにしています。ちょうど
先日、書類が整って承認が得られそうだという電話をもらったところなんですよ。とはいえ、これまで何度もそこまでは進んだんです。もし本当に承認が下りたら、車は正式に私のものになり、持ち帰ることができます。それまではただじっと待つのみです…」

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA

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