本物の体験│新旧シェルビーを乗り比べしてみる

Photography: Winston Goodfellow



GT350が最初に生産されたヴェニスの工場跡は、ベックが経営する整備工場からもそう遠くないというので、そこを旅の出発点とすることにした。往時のGT350は飛びきり速いモデルで、0-60mph加速を6秒台半ばでこなし、1/4マイル加速は14秒台で駆け抜けた。もっとも、ベックのGT350はそれよりもさらに速い。まったく交通のない道路では、テールパイプから黒いスモークをまき散らしながら、35mphから115mphまで勢いよく加速していく。いっぽう、現代のシェルビーGTは0-60mph加速で5秒フラットを記録し、1/4マイル加速を13秒台半ばで走りきる。ところがベックのGT350と私のシェルビーGTを並べてスタートさせると、マイル表示のスピードメーターが3桁に届くまではGT350のほうが速く、そこからシェルビーGTがじわじわと差を詰めていくという展開になる。ベックのシェルビーがガッツに溢れていることは間違いない。



少し道に迷った後でプリンストン・ドライブにたどり着いた。そこは狭く、短く、これといった特徴のない通りで、周囲には駐車場やマンションが数多く見受けられた。かつての工場にはレンガ製の立派な門が残されており、40年が過ぎたいまも当時の面影を残している。この建物はおよそ600万ドルで売り出されているようだが、静かななかにも荘厳な雰囲気をたたえており、いまにもソリッドリフターが組み込まれたV8エンジンの迫力あるエグゾースト・サウンドが聞こえてきそうだ。

往年の空気にほんの少しだけ触れ、写真撮影を簡単に済ませた我々は、そこから15分ほど走ってウェスト・インペリアル・ハイウェイ6501番地にやってきた。現在、この場所はタイ国際航空が利用しているが、2台のシェルビーが近づいてくると警備員たちが駆け寄ってきた。そこでベックが「これは40年以上も前に、ここで作られた車なんだ」と語ると、警備員たちは腰を抜かさんばかりに驚いて迎え入れてくれた。私たちはそこで写真を撮ってから1時間か2時間ほどドライブに出かけ、夕暮れ時に戻ってきてさらに写真撮影を行うことにした。

我々は翌日も旅を続けた。1967年9月以降、シェルビー・マスタングはミシガン州で生産されるようになったが、これと並行してレース活動を行なっていたキャロル・シェルビーたちはトーランスの190番ストリート4320番地にその本拠を構えた。私たちが訪れたとき、この場所はトランクルームに姿を変えている。そこからさらに、現在キャロル・シェルビー・エンタープライズの本社があるガーディナのフィゲロア通り19021番地まで私たちはシェルビーを走らせた。

ときに、私とベックは車を交換したが、GT350Rのバケットシートが与えられたベックのGT350はとにかくコクピットが窮屈で、ステアリングが膝に当たってしまう。これではまともに運転できないので、ベックの友人でNo.1802の66年製GT350を所有するグレッグ・バービエラを紹介してもらい、彼のシェルビーGT350に試乗することにした。 グレッグのシェルビーはベックの車と仕様がほぼ同じだが、バケットシートではなく、エンジンのチューンナップが施されていない点が異なる。



エンジンを始動させると、比較的低い回転数でゆるゆるとアイドリングを始める。ドライバーの胸元近くに迫るステアリングは、意外にも直進付近に遊びがある。ストロークの奥深くでミートするクラッチはかなり重いが、フットボール選手でなくとも何とか操作は可能。ブレーキも踏み始めの部分に遊びがあるほか、ブースターを持たないために踏み応えはかなり重かった。また、6フィート3インチの私が乗り込むと、現代のシェルビーとは異なり、ヒール&トゥはほとんど不可能に近い。

編集翻訳:大谷 達也  Transcreation: Tatsuya OTANI Words and Photography: Winston Goodfellow 

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