本物の体験│新旧シェルビーを乗り比べしてみる

Photography: Winston Goodfellow



それでも、路上では新たな発見の連続だった。コクピットに乗り込むと、GT350はひとまわりボディがコンパクトに感じられる。そして驚くほど軽快に、機敏に操れるのだ。スロットルペダルを踏み込むと、フレキシブルなエンジンはどんな回転数からでも加速を始め、その勢いはレッドゾーンが始まる6500rpmまで変わることがない。ドアの真下に設けられたテールパイプからは力強い排気音が響き渡り、大径のキャブは咆吼のような吸気音を轟かせ、騒然たるバルブ・リフターのメカニカル音はリブ加工が施されたシェルビー製カムカバーを通り抜けてキャビンを満たす。シフトノブは手に余るほど大きく、また最新のよくできたマニュアル・ギアボックスに比べるとシフトストロークはやや長めに感じられた。

コーナリングでは、この時代の車らしくそれなりにロールもするが、ノーズは素早く向きを変え、リアもしっかりとこれに追随する。このGT350は素晴らしい統一感を備えている。シートのホールド性が高くないため、私はステアリングを抱え込むようにしながら上半身を支えつつ、加速、減速、コーナリングを楽しんだ。ングが支えるリミテッド・スリップ・デフが踊り始め、GT350はやや落ち着かないマナー(これをベックは"シェルビー・バウンス"と呼んだ)を示すが、それを除けば申し分がない。



少し落ち着いて考えてみても、家を抵当に入れてでも買うべきという答えにたどり着いた。はたして現代のシェルビーと往年のシェルビーに共通する、乗り手をワクワクとさせるようなこの感動は、いったいどこからやってくるのだろうか?

私のシェルビーをドライブしたグレッグも、大いに良い感触をつかんだ様子だった。「最初はちょっと懐疑的だったよ」とグレッグ。「でも、このクルマに乗ると、これまで自分が乗ってきたGT350と同じフィーリング、同じ感動を味わえる。レスポンスもいいし、本当に俊敏だね。サウンド、コーナリング、ブレーキング、ボンネット越しに見える景色、そのどれもが瓜二つなんだ。1台は現代の、そしてもう1台は40年以上も昔のクルマなのにね。裏を返せば、GT350を作ったとき、彼らはすでにクルマの本質というものを見抜いていたんだろうね」

ベックも同意見のようだった。「スプリングレートとかサスペンションの設計がいいから、オンロードでの乗り心地ははるかにいいね。それなのに、素早く曲がり、素早く加速し、素早く止まる。このままウィルロー・レースウェイを走らせても、結構いいラップタイムが出るはずだよ。GT350を現代に蘇らせるとすれば、まさにこれが理想形かもしれないね」

答えはブランドのDNAにある。そんなことを思いながら、私は現代のシェルビーが生み出されるラスヴェガスを目指した。1960年代、彼らは「不可能なことはない」をポリシーとして会社を立ち上げた。その志は、いまも変わりないのだろうか? 往年のシェルビーが展示されているミュージアムでしばし待っていると、やり手で知られる副社長のギャリー・パターソンが出迎えてくれ、私をファクトリーツアーに誘ってくれた。生産ラインを紹介してくれたのは大柄なギャリー・デイヴィス。彼のオフィスで時を過ごしていると、この会社の「不可能なことはない」というポリシーはいまも健在であるように感じられた。



やがて、私はこれまでずっと胸の奥底にしまっておいた自分の夢を、ふたりのギャリーに打ち明けることにした。すなわち、私のシェルビーを100ポンド軽量化し、100馬力パワーアップし、サスペンションとブレーキを強化することで、現代のGT350Rを作り出すことはできないだろうかと、彼らに持ちかけたのだ。「できない相談じゃないね」 その答えを得て、私は自分のシェルビーをここラスヴェガスに預けていくことを決めた。

1週間、1500マイルにおよぶ旅を終えたとき、スティーヴ・ベックは、こんな話を私に聞かせてくれた。「グレッグと僕は、もう何年も昔のシェルビーを探し続けているんだ。ところが、65年には何百台かが作られ、66年には2300台ほどが作られたはずなのに、それらの姿を見る機会はまずない。きっと金持ちが手に入れて、大切にガレージに仕舞っているんだと思う。だから、街でもサーキットでも、昔のシェルビーに出会うことは滅多にないんだ」。

編集翻訳:大谷 達也  Transcreation: Tatsuya OTANI Words and Photography: Winston Goodfellow 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事