フィリピン空軍基地の格納庫跡地にできた世界最大のレストア工場

Photography:Malcolm McKay



「私たちは顧客が高度なレストアを求めない限り、一般的なコンクール基準で作業しますが、もちろんオプションもあります。初期のEタイプ・ジャガーなら通常の料金に1万~1万5000ドル追加すれば、ペダルボックスを新しくしたりシートのヘタリを修復したりサスペンションに改良を加えるといったことができます。オリジナルパーツはもちろん木箱に入れてお戻しします。私たちはまずこのレベルで力量を蓄えてから世界に打って出たいと思っています。これまでの4年間は海外との仕事はしてきませんでした。ここにあるすべての車はまだ私の所有物です。でもようやく営業を開始する準備ができました。これらの車がとにかく有名なコレクターの手に渡ることを望んでいます。彼らの評価は信頼できますから。最近、製造ナンバーが5番というアルミボディのXK120を購入しました。右ハンドル仕様としては2番目の車で、いまレストア作業中です。同じく16番目の右ハンドルのEタイプもレストア中です



ボディのプレスについてはポーランドのプレス会社とも契約しているらしい。そこでは自社製パネルを作ることができ、特別な合金でできているCタイプやXKSS、Dタイプのダンロップ製ブレーキキャリパーも、「そこの鍛造技術を使えば復刻もできる」とビルネスは説明してくれた。現在彼はレストア中のCタイプに載せるオリジナルのウエバー・キャブレター鋳造用の砂型を探して、東奔西走しているのだという。

「ブレーキキャリパーを手に入れたいがためにXK120を50台、テキサスのジャンクヤードでは一度に37台のジャガーを買いましたよ」彼はとことんやる主義なのだ。「しかしほとんどの車のパーツが合わなかったので、実際に使えたのは5個だけでした。パーツの復刻ができれば多くの車が再び走ることができるようになるでしょう」

ジムは工場を出ると私を車に乗せて、少し離れたところにある木工工房にも連れて行ってくれた。そこでは真新しい木工製品がロールスやベントレーのためにせっせと仕上げられていた。ジャガーXK120のドアやボンネットのフレームもあるが、ジム個人のアンティーク家具コレクションも置かれていた。家具だけでなく、大型の木製スピードボートも2艘建造中だった。ジムの多趣味ぶりが窺える。

次のドアを開けると、そこはアラジンの魔法の洞窟のようなところであった。ロールスやベントレー、E タイプやX K、MGA、MGB、サンビーム・タイガーが所狭しと並んでいた。



「MGAツインカムなら8台あります。もっと多いのは1969年
から70年のマスタングで40台、64年から65年のマスタング・コンバーチブルは20台から30台買いました。カリフォルニアのレンタカー会社のために現代の駆動系を使ってちゃんと動く車に仕立て上げる予定です。こちらはトランザム仕様のボス・マスタングです。フォードが7台だけ作ったレース仕様ですね。私はいま、シェルビーからそれと同じものを50台作れるライセンスを受けているんです。ほかにカマロもありますし57年のシボレー・コンバーチブル、フェラーリ330 2+2のシャシーなんかも作っています」

ジムは手つかずの状態で順番を待っている車たちを眺めながらそう言った。まだ全体の4分の1も完成していないのに大丈夫なのだろうか。しかしジムはそんな状態でも勝算ありと踏んでいる。車は遠からず完成するだろうし、ビジネスとして見ても、海に囲まれたフィリピンには大きな可能性が広がっていると彼は考えているからだ。彼はこの国において才能あるビジネスマンという名声を確立しており、彼のクラシックカーに対する情熱は揺るぎないものがある。それは彼の弱点になりはしないのか?BMTの門を出て行った完成車はまだ数えるほどしかない。しかしジムはどっしりと構え、このビジネスに情熱のすべてを注ぎ込んでいる。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words & Photography:Malcolm McKay

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