フィリピン空軍基地の格納庫跡地にできた世界最大のレストア工場

Photography:Malcolm McKay



もちろんビルネスひとりでBMTが成り立つわけではない。ここで有能なスタッフの何人かをご紹介しよう。最近チームに加わったジェイソン・ランバーグは、カリフォルニアにあるシンボリック・モータースのレストア部門からBMTに移ってきた男だ。元の職場ではペブルビーチで部門賞を二度勝ち取ったことがあるほどの凄腕だ。BMTのPRの面倒を見ているサラと最近結婚してからフィリピンにやってきた。景観のよさ、親しみやすい人々、それに当地のチャンレンジ精神がいたく気に入っているそうだ。



「ここの従業員は本当に情熱があって、細部にまで気を配った
仕事をしています」ジェイソンは熱く語り始めた。「世界的に腕のいい板金工は少なくなっています。でもここのスタッフは信じられないくらいいい仕事をする。女性工員も45人います。機械部分の組み立てから板金までこなします。彼女らは本当にうまいんですよ。アメリカのレストアラーは追い求めた仕事をしません。なぜなら労働賃金のバランスがこことは絶対的に違うからです。私たちはまず技術を磨くことに全力を注がなければなりません。均一した仕事ができることも重要なので、彼らにはレストアが完了した車を撮ったビデオを会社の食堂で見せています。私はBMTがレストアの世界的なトレーニングセンターになればいいと考えています。特に板金や電気系、メカニカルな部分でね。実は中国に新しくできる考古博物館で修復チームを育てる計画もあるんですよ」



巨大なボディ工場はオーストラリア人のマルコム・マクレガーが司る。この道35年というベテランの彼は、同じくらい経験豊富な地元出身のロバート・クナナンとともに工場を切り盛りしている。クナナンがいかに重要な存在であるかをマクレガーはこう語る。

「ここで働く工員はほとんどが独学です。でも技術レベルは高く、
向上心に燃えています。そんな腕のいい板金工たちと私はすでに50台ほどを仕上げましたよ」

英国人のマイケル・ハリソンはフィリピンに住んで10年になる。
「私はイギリスにいる頃にフィリピン人の妻と結婚してからこっちに来たんだ。技術はイギリスで習得し、そのあとマスタングの専門工場で5年働いたよ。BMTに来たのは2年ほど前だが、ここはいいね。最初はボディの下準備の仕事から始めて、やがて塗装管理、倉庫管理を経て今では特殊プロジェクトを受け持っている。細部まで注意して見る目はここで養った。質の高い車を送り出すには多くの工員やスタッフの努力が不可欠だね」

塗装部門の責任者カール・ホランドはイギリスでカスタムカーの塗装をしてきた。塗装歴30年のベテランだ。
「当時と違うのは速さだよ。どの車も作業の開始から完成まで計画に則って進められ、塗装も決められた数の中から選ばれる」

こう語るカールは分野を超えてEタイプ・ハードトップに代表されるグラスファイバー部門も統括する。カールによれば、どんなEタイプ・ロードスターであってもここではハードトップを捨てることから始まるのだそうだ。



ことほどさように、BMTのレストア流儀にはハラハラさせられるものがあるいっぽうで、広い工場の中でたくさんのフィリピン人の工員が、ジャガーXKやEタイプ、ポルシェ356やロールス・ロイスの間をそれぞれ忙しく行き来し、群がって作業する。そうした姿はたとえ車好きの目から見て、心温まるものと映るのではないだろうか。レストア中の車であっても完成に近い車であっても、仕事のクォリティはとても高い。BMTの未来は明るいと言ってよいだろう。とくに海を隔てた中国でこのジャンルの市場が生まれれば、BMTが恩恵を受けるのは間違いない。

「いまここで仕立てた車はとても高品質です。でも中国人は隣
人が持っていないものを所有したがる傾向がありますから、いろいろな車を用意しないと。中国で商売するには初期のポルシェ911や356、メルセデス・ベンツ190SL、ジャガーEタイプ、アストンマーティン、それにベントレー・コンチネンタルといった、運転するのが比較的楽な車であることが最大の条件ですが」ジム・ビルネスは明確な分析を立て、そのときが来るのを待っている。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words & Photography:Malcolm McKay

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