英国の田舎を縦断するクラシックカーラリー│準備もしないで参加した2人の珍道中

Photography: Gerard Brown



翌朝8時、ぐずついたコンディションの中を最初の車がスタートした。私たちのスタート時刻は8時57分だったから、"フル・イングリッシュ・ブレックファスト" をゆっくり堪能し、スクワイアに体を押し込んだ。

私たちはおそろしく準備不足だった。当然ながらスクワイアにはラリーに不可欠なトリップメーターの備えはなく、私にナビなどできない。出発前にそれを説明したが、ジョナサンは少しも心配していなかった。彼は、とにかくどこでも可能な限り飛ばすのだ。おかげで私には、ロードブックで現在地を見つける時間すらなかった。 

幸いコマ図は詳細で分かりやすく、運営も
最高だった。だが、最初の高速のジョグラリティ・テスト(訳注:レギュラリティ・テストの一種)で私は道を間違えてしまった。これで優勝はなくなったのだから、ノンビリ走るのかと思ったが、我がドライバーは"ノっている" のだ。



グッドウッド・リバイバルに出走したこともあるこのレーシングカーで、限界の走りを追求しなければ気が済まないらしい。間もなくして最初のドライビングテスト(訳註:英国独特の自動車競技の呼称。運転の正確さを競う)の舞台となるブランティングソープ飛行場に到着した。ジョナサンはフラットアウトで走って好成績を収めた。110bhpを発揮するスーパーチャージャー付き1500㏄DOHCエンジンのピックアップは素晴らしく、大径のブレーキは強力だ。ウィルソン製プリセレクターギアボックスはストップ&ゴーがお気に召さないように感じられた。

その後もスクワイアは快走を続け、ペースも上がってきた。こうした公道上で行われるリライアビリティ・トライアルは、平均速度30mph(48㎞/h)以下に設定されているが、曲がりくねった狭い裏道でそのペースを維持するのは難しい。初日の昼食はボスワース・ホール・ホテルで、そこでジョナサンがエンジンルームをチェックしたのは正解だった。ボンネットを開けて現れたのは、光り輝くエンジンがオイルまみれになった姿だったのだ。彼はゴムのジョイントにクラックを見つけ、同行の優秀なメカニックたち(騎兵隊のようだ)によって修理を終えた。



ロスした時間を取り戻すべく、ジョナサンは猛烈に飛ばし始めた。25~30mphキープで走るより、ずっと楽しい。だがちょっとばかり速すぎた。ロードクリアランスの低いスクワイアで小川に乗り入れ、浅瀬を渡っていたとき、突然、エンジン音が耳をつんざく轟音に変わった。エグゾーストパイプが外れてしまったのだ。

ジョナサンはハンマーを手にすると車の下に潜り込んで修理にかかった。いろいろな工具を渡すよう大声で私に指示するが、私は作業風景を撮影し、ノートに記録しながらなので忙しい。このときの写真を見れば、キルトでラリーに出てはいけないことがお分かりいただけるだろう。幸い、今回も"騎兵隊" が到着し、ホースバンドの助けも借りて無事エグゾーストは元の位置に戻った。見事な修理で、最終日のゴールまで、びくともしなかった。

こうして金曜の宿泊地、マックルズフィールド近郊のシュリグリー・ホール・ホテルに到着した。初日を終えてトップはジェレミー・ヘイロック/ギャレス・バーネット組のタルボット105アルパイン。4秒差で続く2位のギャレス・ホールディング/デビッド・トンプソンも同じモデルだ。3位はポール・カーター/ジョン・ベイリスのダービー・ベントレーだった。夕食後、私は早々に床についたが、ジョナサンはバーに攻め込んでいった。この日のルートは、アシュビー城の横を通り、風光明媚なピーク・ディストリクトへと抜ける素晴らしいものだったらしいは、私はロードブックを見るので精一杯だった。



土曜の朝。私は疲れが抜けず、また地図とにらめっこかと思うと元気も出なかった。だが天気は最高だし、フル・イングリッシュ・ブレックファストはさらにおいしいもので、気分も乗ってきた。2日目はランカシャーを抜け、ヨークシャーに入る。ウィドップムーアやフォレスト・オブ・トラウデンなどの荒野を行く素晴らしいルートだ。低速のジョグラリティはあまり重視しなかったが、次のタイムトライアルではジョナサンが発奮し、ここでも上位に入った。昼食を終えると、ヨークシャーデールを足早に駆け抜け、リブルヘッド高架橋を横目に見ながら、カンブリアに入る。

ゴールはスコッ
トランド南端のグレトナ・グリーンだ。その昔、イングランドから駆け落ちしてきた多くのカップルが結婚したことで有名な村だ。2日目を終えて、トップは変わらずヘイロック/バーネット組で、リードを24秒に伸ばした。この組は最後まで難攻不落だった。2位にはベントレーでスー・シュースミス/トリナ・ハーリー組が上がった。僅差でアルファ6Cを駆るアリステア・コールドウェル/カトリオーナ・リングスが追う。この夜、私は早めに部屋に引っ込んで地図の確認に没頭し、ジョナサンはおしゃべりに花を咲かせていた。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words:Robert Coucher and Jonathan Turner 

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