生き続けるマクラーレン ロングテール│進化の歴史をたどる

octane UK

最初に登場したマクラーレンのロングテールは1997年のF1 GTRだが、それ以来、いくつもの世代のロングテールが誕生してきた。誰もが憧れる名前を冠したモデルのヒストリーをマーク・ディクソンが綴る。

ダイエットには往々にして苦労が伴うものだが、そ
の努力は時として多くの金銭的価値が付随する。もしもあなたが新しいマクラーレン600LT(左の写真でリアタイヤを痛めつけられているのが600LTだ)を購入する際にクラブスポーツパックをオーダーした場合、18万5000ポンドの車両価格にくわえて2万4170ポンドの追加料金を支払わなければならない。だが、これによって車重は9.3kg軽くなる。

つまり、およそ1½ストーン(ストー
ンは体重などを表すときの単位で14ポンド、約6.35kgに相当)のダイエットが図れるのだ。人間の体重を管理するウェイト・コントロール・プログラムの料金は月20〜30ポンドが相場だろうが、これを使って同じだけ体重を絞り込むとすると、たとえば3カ月ほどかかるだろうか。アメリカ出身のとある友人は、私にこういった。「計算すれば答えはすぐにわかるだろ? 頭を使えよ!」

いやいや、もしも理性だけで解決できるなら、誰もスーパースポーツカーなど買いはしない。しかも600LTはコストパフォーマンスも優れている。このモデルに先立って登場したマクラーレン・セナも外観に大きな違いはないが、価格は600LTの18万5000ポンドに対してセナは75万ポンドに跳ね上がる。もっとも、どちらもオーダーシートに示されたオプションのいくつかにチェックを入れるだけで、支払総額は天井知らずのように膨れあがるだろう。しかも、マクラーレンの説明によると、600LTは直前のページで紹介したF1GTRロングテールと密接な関係があるという。手がかりは、そのモデル名にある。「LTは何の頭文字か?」というクイズに正解しても、なんらかの賞金を勝ち取れるとは到底思えない。マクラーレンによれば、600LTはロングテールの名を引き継ぐ4番目のモデルで、2019年1月には、ロングテールの名を継承する5番目のモデル、600LTスパイダーも登場した。 



最初の作品は1997年に登場したF1 GTRロングテールで、これはGTレースにおける競争力を維持するために急遽、開発された。ロングテールはF1 GTRの最終進化形でもあり、シャシーナンバーでいえば19Rから28Rまでの合計10台が製作された。もっとも、1995年のル・マンで総合優勝を果たしたオリジナルのF1 GTRに匹敵する栄冠は手に入れられなかったが、それでも1997年のル・マンでは20Rが総合2位、26Rが総合3位に入る健闘を示したほか、それ以外のマシンも世界中のGTシリーズで好成績を収めた。

F1の生産が終わりに近づくにつれ、レースシーンでの最盛期を過ぎたショートテールのGTRは人気に陰りが見え始め、最後の数台を販売するのにマクラーレンは苦労したと伝えられる。ピンクフロイドのドラマーで自動車愛好家としても名高いニック・メイソンは、『Octane』51号に登場した際、彼が所有していた元デニス・ハルムのマクラーレンM15とショートテールの10Rを交換することになった経緯について語っている。このときニックは素晴らしいアイデアを思いつく。マクラーレンにショートテールGTRをロードカーにコンバートして欲しいとリクエストしたのだ。これだけのことで、次のオーナーにGTRを売却する際にニックは大きな利益を得たといわれる。

「レースでの戦績にもよりますが、ショートテールGTRの
現在の相場は2000万〜3000万ポンドですね」そう語るのは、スーパースポーツカーを専門に取り扱うトム・ハートレイJr.である。

「いっぽう、F1ロードカーの価格は1500万〜2500万ポンドです。ところがGTRロングテールは、意外にも1500万〜1750万ポンドで取り引きされています。その理由は、ロングテールがショートテールほど扱い易くないことに起因します。なにしろ、ショートテールはベースとなったロードカーにウィングを取り付けた程度ですが、ロングテールはそれこそレース専用に造られたモデルで、一切の妥協が排除されていたのです」



トムは言葉にこそしなかったが、ここ数年で10台造られたロングテールのうちの2台を販売している。1台は1997年に開発用に製作されたオリジナルというべき19Rで、もう1台は上に写真で紹介した27Rである。

F1ロードカーの生産が1998 年に終了してから20 年近くの時を経て、マクラーレンはLTと名付けたモデルを投入する。最初は2016 年にデビューした675LTクーペで、その直後には675LTスパイダーが登場した。現代のロングテールは確かにリアエンドが延長されているものの、F1 GTRほど明確な違いはない。そのかわり、空力面ではベースとなった650Sより50%もサイズが大きなエアブレーキを採用していた。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Mark Dixon

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