世界のラリーシーンを席巻したストラトス│ラリーのために造られた車

Photography:Matthew Howell



現代の派手なスポーツカーを見慣れた目にも、ストラトスの外観は刺激的だ。今回撮影した美しい車はロードゴーイングバージョンのストラダーレだが、心躍る姿であることに変わりはない。サンドロ・ムナーリはじめ当時のランチアのワークスドライバーも、フィオリオから「これが君たちのために造った新ような興奮を味わったことだろう。それまでのランチアが刻んできた過去とは一切つながりのないエキゾティックなスタイリングは革命的でさえあった。

ストラトスが普通の車といかに違うかは、乗り込んでみるだけで分かる。FRP製のドアはあまりに軽いので、拍子抜けするほど簡単に開き、手で押さえていなければそよ風でも閉まってしまう。シートはフロアに直接取り付けられており、通常よりはるかに低い。広いドアシルをまたいで右足を突っ込み、体をふたつ折りにしながら手を伸ばしてステアリングを握ったら、それを支えにもう一方の足も曲げ、アルカンターラ貼りのバケットシートにドシンと腰を落とす。スマートとはとてもいえないが、それさえも特別な車であることを実感させる。




シンプルなシートは幅が狭いため、肩幅の広い人は、高いサイドボルスターが邪魔してバックレストから体が浮いてしまい、快適な姿勢を取りにくいかもしれない。フロントウィンドウはバイザーのようにカーブを描いており、前方と両サイドの視界は素晴らしいが、それでも窮屈なことには変わりはない。頭上の空間は皆無に等しい。ドアからかなり内側に座っているにもかかわらず、サイドウィンドウも内側に入り込んでいるため、頭の左側には窓が、右側にはバックミラーが迫る。ちょっと変わっているのがドアポケットで、ヘルメットが収まるようになっている(ビタローニがストラトスと名付けたヘルメットを製作した)。

横置きミドシップの2.4リッターフェラーリV6エンジンがすぐ後ろで目を覚ますと、キャブの息づかいに重なって深みのある洗練された低音が響いてくる。水温が上がったところで、先端のとがったタコメーターの針を勢いよく回してみると、サウンドは乾いた甲高い轟音に変わり、トップエンドではメタリックな響きを帯びた。YouTubeで、24バルブ275bhpのグループ4仕様のストラトスがラリーで森を駆け抜ける映像を見たことのある人だったら、ストラダーレのエンジン音には荒々しさが足りないように感じるかもしれない。それでも、神経回路をくすぐるようなゾクゾクするサウンドだ。

現代の基準で見ればストラトスはおそろしく速いわけではないが、車重はわずか980kgだから、190bhpでも楽しむのに不足はない。また、フェラーリV6はトルキーでもあるため、ミドレンジのレスポンスが軽快で、重くて入りにくいギアチェンジを補うのに好都合だ。

短時間乗ったくらいでは(たとえ長く乗って慣れたところで変わらないのだろうが)、ストラトスで不用意に全開まで踏み込む気にはなれない。2180mmという超ショートホイールベースに、前後重量配分は42:58、その上、ステアリングが非常にクイックだから、派手なスピンを演じる危険性が常に存在する。シャシーとサスペンションは当然アクロバティックな俊敏性を発揮するようセットアップされたものだ。しかし、1970年代の映像を見れば、ムナーリですらストラトスで長くドリフトしていないことが見て取れる。フォード・エスコートや現代のラリーカーのようなドリフターではないのだ。

ストラトスは、ロードカーとしては手に余る代物かもしれないが、ラリーカーとしては70年代中盤に無敵の強さを誇った。1974年、75年、76年とWRCで3連覇を果たし、国内レベルの選手権やドライバーズタイトルを無数に獲得。個別の優勝回数は数え切れない。その中には、グループ5仕様での1973年ジロ・デ・イタリアと1974年タルガ・フローリオ優勝も含まれる。特別な仕様でまったくの白紙から設計するというフィオリオのビジョンが正しかったことの何よりの証しだ。



だが、世界のラリーシーンを席巻したストラトスの強さと、そのために費やされた莫大なコストは、フィアットグループ内に嫉妬と摩擦を引き起こした。1977年、ついにランチアは政治的な戦いに敗れ、ラリーにおけるフィアットの全精力は、131アバルトに注がれることが決まった。このシーズンもストラトスは重要なイベントに参戦し、ムナーリがモンテカルロ・ラリーで3連覇を果たしたが、それでもランチアは、タイトルは目指さないと発表した。

ストラトスの快進撃もここまでかと思われたが、そうではなかった。1978年にはWRCのレギュレーションが変更され、オリジナルの仕様に戻さなければならなかったが、それでもストラトスは、サンレモ、ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・コルスで優勝した。さらに、ワークスとしてのサポートがなくなった1979年にも、優れたプライベートドライバーでモンテカルロのスペシャリストだったベルナール・ダルニッシュが、シャルドネカラーの真っ青なストラトスで表彰台の中央に駆け上がった。この年は、その後もプライベートチームがポイントを積み重ねた結果、メーカーとして正式に参戦していなかったランチアが年間4位を獲得するに至ったのである。

「ラリーのために造られた車」とは1978年にストラトスで優勝したラリーの名手マルク・アレンの言葉だが、まさにその通りであった。


1974年ランチア・ストラトス・ストラダーレ
エンジン:2418cc(92.5×60.0mm)、65度V型6気筒、
SOHC、12バルブ、ウェバー製IDF40キャブレター×3基
最高出力:190bhp/7000rpm(DIN) 
最大トルク:22.0mkg/4500rpm(DIN)
変速機:前進5段MT、後輪駆動 
ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前):アッパーウィッシュボーン、ロワー・ラジアスアーム、ロワー・セミトレーリングアーム、コイルスプリング、ダンパー、アンチロールバー
サスペンション(後):マクファーソン・ストラット、リバースド・ロワーウィッシュボーン、トレーリングリンク、コイルスプリング、ダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:4輪ディスク 
車重:980kg 
最高速度:230km/h 0-100km/h:6.0秒

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Richard Heseltine 

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