マクラーレン ロングテール第5章、始まる│アリゾナで600LTスパイダーを試乗

Images: McLaren

2019年1月に発表されたばかりのマクラーレン600LTスパイダー。伝統のロングテールを継承するそのマシンの、何がドライバーを魅了するのか最新モデルをアメリカ・アリゾナ州で試乗した。

マクラーレンは600LTスパイダーを「ロングテール第5章」と位置づけている。第1章は1997年ル・マン24時間に参戦したF1 GTR ロングテール、第2章は2015年発表の675LT(クーペ)、第3章は2016年発表の675LTスパイダー、そして第4章は2018年発表の600LT(クーペ)である。

一連のモデルには脈々と受け継がれてきた伝統がある。それは1)極限までの軽量化、2)エアロダイナミクスの最適化、3)エンジンの高出力化、4)サーキット走行を最重要視したドライビング・ダイナミクス、5)人と車の一体感、6)生産台数が限定されている、の6点に集約される。



これらの伝統は600LTスパイダーにもそのまま踏襲されている。ベースとなった570Sスパイダーに比べて車重は100kg軽く(MSOクラブスポーツ・パック装着の場合)、ダウンフォースは100kgも増大し(250km/h走行時)、最高出力は30ps増しの600psとなり、サスペンションのスプリングレートはフロントで12%、リアで42%も強化され、パワステの設定が見直されるとともにエンジン・マウントを固めて車との一体感を改善。また、生産は2019年3月から12カ月間に限定して台数に一定の歯止めをかけている。

そんな600LTスパイダーにアメリカ・アリゾナ州の一般道とサーキットでステアリングを握るチャンスを得た。
 
最初のメニューはアリゾナ・モータースポー
ツ・パークでのサーキット走行である。走り始めてまず感じるのは、なんともいえない軽快感。ステアリングを切ったときにすっと向きを変えるノーズの動きには慣性の影響が一切感じられず、まるでレーシングカートを操っているかのようだ。加速や減速に関しても同様で、スロットルやブレーキの操作に対して微塵の遅れもなく車が反応する。最近、よくアジリティという言葉が用いられるが、その多くは操作に対する反応を敏感にしただけで車の本質的な運動性能を向上させたわけではない。しかし、マクラーレンは車両の軽量化とレイアウトの適正化を図ることで軽快感や俊敏性を生み出している。このふたつは似ているようでいてまったく非なるものというべきだ。

その恩恵を明確に感じたのが低速コーナーの立ち上がりで私がスロットルペダルを過剰に踏みすぎたときのこと。この直前に、助手席に腰掛けるインストラクターがドライビングモードをサーキット向きのトラックに、スタビリティ・コントロールをダイナミックに切り替えていたこともあって、瞬間的にテールがアウトへ流れ始めたのだ。このとき、私はとっさにカウンターステアを与えたが、コーナーの反対側に15度ほどもステアリングを切る大きな修正舵だったにもかかわらずピタリとタイミングが合い、姿勢を立て直した600LTは何ごともなかったかのように次のコーナーに向かって加速していったのである。



もしも大きなヨーモーメントを持つ車であれば、車が持つリズム感にあわせてカウンターをあてなければいけないので、一発目のテールスライドでここまでタイミングをあわせることは難しかっただろう。それだけ600LTの反応はレーシングカーに近いともいえるが、これほどピュアなハンドリングを持つ車でサーキット走行を重ねれば、ドライバーのスキルは間違いなく向上するはず。その意味で600LTは"ドライバー養成マシン"ともいえる。

もうひとつ、今回の試乗会で発見したのが600LTスパイダーの一般道でのマナー。私は幸運にも昨年9月にハンガリーで行なわれた600LT(クーペ)の国際試乗会にも参加していたのだが、そのときはハンガロリンクでのサーキット走行のみで一般道は走行できなかったのだ。今回、一般道で走行した印象をひと言でいえば、乗り心地は思いのほか良好で、100~200kmの日帰りドライブであれば何の問題もなくこなせるはず。ただし、交差点で止まれば勇ましいエグゾーストノートがエンジンの明確な鼓動とともに伝わってきた。

ロングテールはやはりサーキット生まれ、サーキット育ちのロードカーなのである。

マクラーレン 600 LT スパイダー
ボディサイズ:4604 mm×2095 mm×1196 mm
ホイールベース:2670 mm
車重:1309 kg 
変速機:7段シームレス シフトギアボックス
エンジン型式:3 . 8ℓ V 8ツインターボ
排気量:3799 cc
最高出力:600 ps / 7500 rpm
最大トルク:620 Nm / 5500〜6500 rpm
本体価格:2999万9000円〜

文:大谷達也 Words: Tatsuya OTANI 写真:マクラーレン Images: McLare

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事