当時を知る元社員に聞くアストンマーティンDB6のインサイドストーリー

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もうひとり、最終デザインが決まるまでの過程を知る人物、1963~1970年にエンジン部門の責任者を務めたアンディー・チャプマンの証言を聞こう。彼もまた、ニューポートパグネルで働く社員の大半と同じように、ニューモデルに手応えを感じていたという。

「よい進化だと思いました。跳ね上がったテールを採用し、後
席のスペースも少し増やしていたからです。図面を描いたのはバート・シックペニーです。彼はドラフトマンで、いつも実物大でデザインをしていましたが、このときも同じでした。私は彼の作品を見にいくのが大好きでしたよ。あくまでも設計図面なのに、等高線を見るだけでスタイリングが目に浮かんで来るのです。"この人には途方もない価値があるな。大したものだ"と思いましたよ」

「バートは、まるで図面で立体感を表現する術を編み出したようでした。フェルサムのファクトリーでボディメーカーが2個
のモックアップを造りましたが、そこへ会社オーナーのディビッド・ブラウンが来て、リアを少し変えるように言ったのです。それで、リアのクォーターガラスの形を修正しなければなりませんでした。ブラウンは、リアのクォーターガラスをもっと高い位置にしたかったと思います」 ただ、チャプマンはDB6の走りに関しては不満を漏らしている。



「DB4は、そこそこ速く走ったときの性質がよかったのです。
シックスについては同じことを感じませんでした。どうしても少し抑えて走ってしまうのです。パワーステアリングはコーナー入り口で抵抗する感触がなくて、たいへん気に入りました。フロントサスペンションには、わずかながら変更が加えられていました。アッパー・ウィッシュボーンが短くなり、キャスター角も増えて、DB4の1.5度からDB6では2.5度になりました。パワーステアリングの場合、キャスター角を増やしたほうが、フィーリングが伝わりやすかったのです」

懸念材料といえば、リアエンドが少しハングアウトしている
点でした。ホイールベースが長くなり、ファイブやフォーより急激にオーバーステアになったのです。そこで、リアにセレクタライド・ダンパーを付けて、ソフトからハードまで4段階で調整できるようにしました。オーナーたちは満足していたようですね。でも、私はオーナーを欺いているような気がしていました。正直なところ、私たちはセレクタライドが好きではなかったのです。いつもオイル漏れを起こしますから。それに、劇的な改善ではなかったと思います」

メディアはニューモデルに好意的だった。ヴァンテージ仕様DB6のロードテストを行った各誌は、次のように評価している。「新型のデザインは、あらゆる点で先行モデルを凌駕している」と『Motor 』。「最も完成度の高いアストンマーティン」とは『Autocar』。そして、『Autosport』は「DB6がこれまでで最高のアストンマーティンであることはほぼ間違いない。英国エンジニアリングの傑作」と記した。アメリカの『Car andDriver』は「世界中探しても、このアストンほど女性を虜にする車はない」としている。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)  Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Paul Chudeck

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