アバルトが生み出した「フィアット124スパイダー」をシチリア島公道レースでテスト

トランクリッド、ハードトップ、ボンネットは、軽量化のためすべて薄いグラスファイバー製。シチリアのごつごつとした山並みがタルガの典型的な風景だ。(Photography:Olgun Kordal)



タオルミーナに向かう
当然ながらまずはケニーがステアリングを握り、アウトストラーダで山岳地帯を抜ける長距離ドライブに入った。たわいのない会話でお互いを知るいい機会だ。車内はなかなか洒落ている。コーデュロイを張ったレカロのバケットシートに、レザーのステアリング。意外にもダッシュボードはウッドトリムで、英国人の私には1970年代のトライアンフを思わせる、ラリーカーらしからぬ仕様だ。

ケニーがエンジン音に負けまいと大声を張り上げて説明してくれた。「エキスパートはみんなおかしいと言うよ。アバルトが供給したダッシュボードはすべてアルミニウム製のはずだってね。でも、私が買ったのはワンオーナーカーで、ずっとこうだったと販売業者は断言した。ひょっとするとお客の希望でディーラーが取り付けたのかもしれない」

私たちの頭上と背後にはロールオーバーバーがある。これが不可欠なのは、ハードトップがグラスファイバー製だからで、ボンネットやホイールアーチリップも同様だ。124CSAストラダーレと呼ばれたこのアバルトバージョンには、様々なモディファイが施された。軽量化のためバンパーがなく、ドアパネルとスカートはアルミニウム製だ。外観だけでなく、サスペンションにも大幅に手が加えられた。フロントはアップライトが異なり、エクストラのタイロッド、ローズジョイント式のアンチロールバーとなる。リアは完全な新設計で、リバーズタイプ・ロワーウィッシュボーンとトレーリングアーム、コイルスプリングの組み合わせだ。また、標準の124はデフをビームアクスルに装着する、すなわちリジッドアクスルだが、アバルトバージョンではリミテッドスリップのデフをシャシーにマウントする独立式になる。

1756ccのエンジンは、フィアット132サルーンから流用した何の変哲もないものだ。主なモディファイは、カムシャフトをスポーティーなものに交換し、4本足の排気マニフォールドとウェバー製44 IDFキャブレターを2基装備した程度である。しかし、小粒だが屈強なエンジンで、ケニーは容赦せずに5500rpmでアウトストラーダの長い直線を飛ばしていく。しばらくすると、油圧計の針が心配になるほど下がり始めた。エンジンは何の問題もなく回っているので、油圧計が壊れているのだろうと判断し、それが正しいことを祈りながら走り続けた。

私たちの予想は的中。アバルトは3時間ほどのドライブをこなして、島の東海岸にあるジャルディーニ・ナクソスに無事たどり着いた。ここで一泊する。いよいよ明日から厳しいチャレンジが始まるのだ。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curatorsLabo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curatorsLabo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mark Dixon Photography:Olgun Kordal

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